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ダークサイドFILE No.06

蜂蜜の眠り姫

作者 DarkStar

「ちょ、ちょっと待って下さい!!!
 次のコンクール。主役がどうして、あたしじゃなくて
 恵美なんですか!!!」

バレエのレッスン場で
麗緒奈(れおな)が監督に詰め寄る

「次の演目には、お前よりも、恵美(めぐみ)の方がふさわしいと
 振り付けの加藤くんとも相談して決めたんだ。
 お前は、自分の演技に集中しろ
 主役ばかりが、バレエじゃないんだぞ。」

「それは、判ってますけど・・・・・」

レッスン場からの帰り道
一人歩く麗緒奈

「納得いかない。なんで、あんな子に・・・・」

麗緒奈は、子供の頃より
バレエをやっており
常に主役の舞台を這ってきた。
それに比べて、
恵美は、最近になってからバレエを始めた
麗緒奈から見れば素人だ。

しかし、恵美は、自分が他よりも、
劣っている事を自覚しており、
その差を埋めるため、
血のにじむような努力を積んできていた。

いつも、主役で演技できる状況に甘えて、
練習をサボりぎみの麗緒奈とは
その点が決定的な違いとなった。

監督などから見れば、
大事な舞台に生半可な気持ちで立つものよりも、
誰よりも努力し、演技する恵美の方が、
うまいとか、下手とか
そういう事を超えて、人を感動させる
何かを持っているのではないかと
恵美の演技には、
未熟ながらそういう力があった。

「ゆるせない。あんな子・・・・・
 どうにかして、私が主役に」

と言う麗緒奈の目の前に飛び込んできた立て看板。

『あなたの願い、叶えてみせます。』

一見、店屋のようにも見えるが、
どうも様子がおかしい。

屋号を示す看板らしきものもあるのだが、
そこには、一切何も書かれていない。

「何よこれ、・・・あれ、こんな所に
 お店なんてあったかしら、」

不思議に思いながらも、
吸い込まれるように
その商店に入っていく麗緒奈。

「いらっしゃいませ。
 なにかお探しのものでも・・・・・。」

と店主だろうか奥のレジの前に
まるで置物ように座わり
顔には、しわが多くあるが、
髪は黒々として、耳の上辺りに白髪生えている。

そんな少し不気味な雰囲気をかもし出している
初老の男が麗緒奈に声を掛けてくる。

麗緒奈が店内を見回すと、
日用品のようなものが並んでいるが、
中には、なんに使うのかよくわからない形の
へんなものまで置いてある。

「ここって何屋さんなんですか?」

「ああ、そう聞かれるのが一番困りまして、
 そうですねぇ、まあ一種のなんでも屋でしょうか・・・」

男が答える。

「さっき看板に、なんでも願いを叶えるって
 書いてあったんだけど・・・・・」
 
「ええ、わたくし共の商品で
 必ずあなたの願いを叶えて差し上げます。」

「とか何とかいって、高いんでしょ。」

「いいえ、むしろわたくし共は
 慈善事業ですから、お代はいりません。」
 

「ねえ、それ本当なの?。じゃあ、私の願い叶えてよ。」

「承りましょう。」

と麗緒奈は、これまでの経緯を話し始めた。

「どう? あたしはあの子を蹴落としてやりたいの。」

「ほほう、さようでございますか・・・・」
と少し考え込んだような男

「なに、やっぱり無理なんでしょう。」

「いえいえ。滅相もない。
 ただ・・・・・・・」
 
「ただ?」

男は、立ち上がり、
麗緒奈の前の方まで歩いてくる
立ち上がると、男の背は小さく。
麗緒奈の腰の辺りまでしかない。

麗緒奈の前まで歩いてきた男は。

「私も、バレエという物については、
 詳しくは存じませんが、
 そんなに大きなコンクールの主役に
 抜擢されたのですから、その方も相当努力なさって
 いらっしゃるのではないのですか?」

「何よ、ちょっと何がいいたいの?」
回りくどい男の言い方に、少しいらいらしてきた
麗緒奈が言うと。

「いえいえ。だた、お客様。
 何か自分の願いを叶えるために必要なのは、
 それ相応の対価と、それを願う強い意志なのでございます。
 その方は、努力という名の対価と、
 結果を引き寄せた強い意志をお持ちです。
 お客様に、それを打ち払うだけの対価と
 ご意思がございますか?」
 
背こそ、小さいが、
凄みの顔で麗緒奈に詰め寄り
威圧してくる男。

「も、もちろんよ。」

男に気押されするも、麗緒奈はそう答えた。

「では、契約成立ですな・・・・・
 さあて、どういたしましょうか・・・・」
考えるように上を向く男に
麗緒奈は。

「ちょ、ちょっと、なんでそこで
 とまっちゃうのよ。」
 
「お客様、実際その方を主役から
 引きずり墜とすにも、いろいろ方法がございます。
 いっそのこと、・・・・してしまいますか?」

男はあえて言わなかったが、
鋭くした目を麗緒奈に向け
その表情から、麗緒奈に男が何をするのか
容易に想像させた。

「ま、まっていくらなんでも、それは・・・・」
というと
男は穏やかな表情に戻って。

「ですよね。では、どういたしましょうか」

といわれ、麗緒奈も考え込んでしまう。

(なんとしても次の『眠れる森の美女』は
 絶対あたしが主役になるんだから・・・・・・
 眠れる森の美女・・・・そっか。)

「ねえ、恵美をずっと眠らせて置くというのは、どう?」

「ほう、なるほど。それなら、その方を傷つけなくても
 いいですなぁ」

「よろしい。では、あれにしますか。」
と男は、レジの後ろの方まで歩いていき、
なにやら、ごそごそ探していると

何かのビンを持って、戻ってくる。

「なにこれ?」

「はちみつです。」

「はちみつ?、これが恵美をずっと眠らせる薬なの・・・」

「左様でございます。
 また、これはどんなに調べても毒は一切検出されません。
 これを使えば、
 早くとも、来年の春まで、彼女は目覚めないでしょう。」

今は、11月。コンクールが12月の末だから
来年の春までなら、十分だ。

「いいわ。それ頂戴。」

「かしこまりました。」

とはちみつのビンを渡す。

「ホントに只で貰っていいの?」

「構いません。ただ、お客様が
 ご自分の願いを叶えるのに、
 それ相応の対価を支払う事になります。
 もちろん、その覚悟はございますよね。」

男が念を押すように麗緒奈に言うと。

「い、いってる事が良くわかんないけど。
 あるわよ。もちろん。」
 
「では、ご成功をお祈りしております。」
と男は頭を下げる。


・・・・・・・

「恵美ぃ~。この間はごめん。
 あたしひどいこと言って。」
 
練習終わりに二人きりになった麗緒奈と恵美。

「あ、そ、そんな麗緒奈さん。
 あたしも、今度のコンクールは
 麗緒奈の方がふさわしいと・・・・」

控えめな恵美が、申し訳なさそうに麗緒奈に言う。

「あたしねぇ、仲直りにお菓子作ってきたの
 よかったら、食べてもらえない?」

と、例のはちみつをたっぷり掛けた
ワッフルを差し出す麗緒奈。

「わあ、ありがとうございます。
 練習の後は、どうしても甘いものが・・・」
 
とワッフルに手を伸ばす。恵美。

いつもおとなしく、控えめな彼女が
あっという間に、食べつくしまった。

「お腹一杯になるとなんだか眠くなりますねぇ」
と目を重そうにしている

(すごい効き目ね、もう眠そうじゃない!!!)

「あれ、なんか、手が・・・・・」
恵美が自分の手を見ると

うっすらと、毛が生えてきた。

(え、なにどうしたの?)
と麗緒奈が思っていると。

恵美の小さな手や腕に
黒い剛毛が生え、ピンク色の爪は、
鋭く伸び巨大な獣の前足になると

恵美の小さな顔からも毛が生え
足もシューズを突き破って、同様の後足が生えてくる。

鼻先が口元と共に前の方に突き出し、
鋭い牙が生えてくると、

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

と一鳴きした恵美。
その顔にもはや、気の弱そうな女の子の面影は
残っていなかった。

その体は、巨大化し、
チュチュを引き裂いて、出てきた毛に覆われた体。
お尻には、小さな膨らみがでてきて、
それは、尾になっていく。

「な、なに!? 恵美が、恵美が、
 熊になった。」
 
「グア~アアアァァ~」
(眠い。・・・・・・早く、
 巣に戻って寝なきゃ、・・・・・・
 でも、その前にお腹一杯にしないと冬眠できない・・・・)

と頭の中まで完全に熊に変化した恵美は、
麗緒奈の方を見る。

「な、なに、め、恵美。
 こ、こんなの話が違うじゃない。」

恐怖の余り、声が震える麗緒奈。

「グルルル・・・・・。」
(これ、細くておいしくないかも、でもお腹すいたぁ)

と牙をむき、麗緒奈に襲い掛かる。

「ひ、ヒィィイィィィ!!!」

ほとんど声を出せないまま、襲われる麗緒奈。

熊に首筋を噛まれ、
そのまま意識がなくなっていく。

(そ、そんなぁ、あたし、こんなは・・・ず・・・・・)

ガクッ。

全身の力が抜けだらりと横たわったそれに顔を近づける熊。

グチュ。ガツガツガツガツ。

血の滴るいやな匂いを周囲に放ちながら。
恵美は、肉塊と化した麗緒奈に夢中で食らい突く。

・・・・・・・・・・

鏡に映る熊の姿。それを見ていた店主の前に、
ほとんど空になったはちみつのビンが現れる。

「お帰りなさい。ふー。これで終わりですかな。」

ビンを奥に仕舞い、再び鏡の前に戻ってくると

「お客様、恵美さんは、本当に
 次のコンクールのために一生懸命
 努力されていました。
 そしてその意思は非常に固く・・・・。
 そのため私は、彼女の人生を奪う事で、
 貴女の願いをかなえようと致しました。
 その願いの対価として、貴女のお命を・・・・・
 当然でしょう。他人の人生を奪うのですから、
 その対価は、ご自分のお命で払っていただかないと」

誰にいうわけでもなく、
独り言のように鏡に喋りかける男。

そして思い出したように。

「ああ、そうそう、貴女様の願いは、
 『彼女を蹴落とす』事であって、
 『貴女を主役にする』事ではないのですよ。
 この件に関しまして、
 当方には一切、不備はございません。あしからず。」

口に笑みを含む男

その前に置かれた鏡に映る熊は、
食事を終え、山に還っていく。

やぶれたチュチュと、血まみれの服を残して・・・・。

	
おわり
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