乳牛娘たちの生活 その2 ~乳牛の群れ~

作者:DarkStar

綾光路 千尋/ジャージー牛

 獣人と呼ばれる獣たちの生態で特徴的なのはその繁殖能力である。例えば牛の獣人であるならば普通の牛との交配はもちろん 人間との間にも子を成すことも可能であり これらの場合において子の性質は必ず母体の影響を受けるという点にある。つまり獣人のめすからしか獣人のは生まれないという事だ。
 とはいえおす側の血統も何代化を経て覚醒遺伝する事もあるのだが 人間社会において勢力を伸ばしていきたい彼らにとってこれは非常に重大な点である。
 そのため めすを保護する事は最重要の課題であり この神華かみはな高校も その一翼を担う組織である。

 こうして種の繫栄を期待されて目覚めた草食の獣は 自己の保護と種の存続の為に自然と群れを形成していく。

 ――――――

 夕暮れ薄暗い教室に佇む2つの人影。静寂に包まれた空間の中でかすかに聞こえる息遣い。影達は抱き合い熱い口づけを交わす。
……裕子ゆうこぉ。ん あむ
あっ 静香しずかぁ……ぉ。ん れろ
 大きく実った2組の乳房が無理やり潰されたことによって反発し身体を遠ざけるも 引き離されるのを拒む様により強く互いを求め合っている。
 そんな完全に二人の世界に染まった部屋から一歩外へ出た廊下。そこには愛し合う少女達へ密かに熱い視線を送る者がいた。
 細くしなやかな指先の片方はブレザーの上から豊かな胸を もう一方はスカートから覗く細くしなやかな太ももを。その両手は徐々に端から体の中心へ向かっていき それ伴って吐き出される息は熱を帯びていく。
……静香ちゃん。……裕子ちゃん
 頬を赤く染めながら少女が発した微かな声は 寂しく空気に消えていく。

 ――――――

 皆様ごきげんよう。わたくし 綾光路あやのこうじ 千尋ちひろと申します。神華かみはな女子高等学校の一年生です。そう聞くと 普通の学生のように思われるかもしれませんが 実は普通ではございません。いえむしろ人間ですらありません。わたくしは人の姿に化け 人間達から隠れて暮らす牝牛めすうしの一頭です。
 我が校では わたくしのような牛だけでなく 馬さんや羊さん ヤギさんなど 人間達から家畜としてしいだげげられている動物たちが人の姿で生活をしております。
 とは申しましても入学時の段階では 大多数の新入生は普通の人間で 残りはわたくしのように人間として育てられた獣が少数いるという状態だそうです。それが在校生のお姉さま方や先生方といった同族と触れ合う事で 本来の血に目覚め変わって参ります。わたくし お友達の助力によって自らの本性を知り 牝牛としての新しい生活を送る事ができるようになりました。
 こうして夏も近づいてきた先日の事 最後の新入生が獣化覚醒を迎える事となり おかげ様で校内に残った人間の数がついにゼロとなりました。
 この発表があるまでは 縄張りテリトリーの中に人間が紛れ込んでいるという事も不安でしたし なによりも人間の声と匂いは わたくしたちのように人間からものにされている動物にとっては非常に不快なものです。ですから人間の数が減っていくに連れて 安心感よりも逆に気を抜いてはいけないという妙に重々しい雰囲気がでていたのですが それが払拭ふっしょくされて一気に校内が明るくなったように感じます。
 それをお祝いして 今日は新入生歓迎会が校内併設の牧場にて執り行われ 全校生徒や教職員を含めた全頭が集っています。
それにしても 改めて考えるとすごい光景だな
だよねー。わずか2 3か月前にはありえなかったもんね
 このお二頭ふたり スラっとした長身と綺麗な黒髪をポニーテールにした凛々りりしいかた真宮司じんぐうじ 静香しずかちゃん つややかな栗色のショートヘアにしている元気いっぱいのかた潮河しおかわ 裕子ゆうこちゃんです。この学校でお知り合いになった乳牛達おともだちです。
そうですわね。今ではお洋服を着ている方に 違和感を感じますもの
 そうわたくし達のみならず この場にいる全てのメス達が 生まれたままの姿で歓談しています。
 よく晴れた青空の下でたちが素肌をさらしている風景は人間たちには異様に見えるかもしれません。しかし 服をまとわない事は動物にとっては当たり前の事。せっかく仲間同士でいるのですから わざわざ人間の振りをして自分を偽る必要はないのです。ただ せっかくの機会ですし牛でなく 馬さん 羊さんやヤギさんとも仲良く会話できるようにしばらくの間は人の姿でおしゃべりをして過ごしております。
 そんな和やかな雰囲気の中で会は進行してゆきます。
では皆さん。これからは 偽りのない姿で のんびりと過ごしてください
 台上の生徒会長がマイクを切りって向き直ります。長いストレートな黒髪を振りながら 手足の細く綺麗な指が中指を残して退化し 黒く艶やかな蹄を伴って指から肢に変わります。スッとした小さなお鼻の先は 鼻孔が拳の大きさまで肥大化しながら前歯と共に口元が前に突き出してお参ります。お顔の横側についたお耳も頭の上でピンと立つようになり つるつるとした体にわずかに生えていた産毛を駆逐するように綺麗な茶色の毛並みが全身を覆っていきます。
ぶるるぅ ひひ ぶるる……
 お腹とお尻に張り出した筋肉と共に 毛足の長い尻尾が後ろに垂れ下がると 2 本の足で台から華麗に飛び降りて まるで競技の障害を飛び越えた後のように美しく 4 本の足で綺麗に着地します。
 首を振り頭を天高く掲げ。
……ブルルル ヒヒィーイイイン!
 鹿毛かげと呼ばれる艶やかな毛色の馬さんが大きないななを上げます。それを号令に 皆さんが一斉に獣の姿に戻っていきます。
 わたくしもその声に応え 全身の力を抜いて獣の血にその身を委ねます。
ふー ふー。もう もぉんもぉ
 舌が伸びて口からはみ出ないよう頭蓋骨が変形して前に突き出すのが視界に入ります。瞳が顔の中央から側面の方に移動しているのでしょう視野が広がっていきます。
 4つ足歩きには邪魔となる鎖骨が消失し 支えを失った腕は前足として前方へ垂れ下がって 手足の中指なかゆび薬指くすりゆびは体重を支える為 発達する代わり他の 3 指は退化します。
 手足に蹄が生え揃う頃 両前足を地面につけ前のめりに体重を掛けます。お尻の中に短く収まっていた尾てい骨が伸びて尻尾になり それを守るようにお尻の筋肉も増え引き締まってゆきます。
 こめかみから骨が付きだし引き伸ばされた皮膚と共に斜め上に伸びて角を形成してしていくのを感じます。
 茶色とクリーム色の毛並みが全身を覆いつくすと つい先ほどまで人間の娘が居た同じ場所には 一頭のジャージー牛が立つようになりました。
ンモォオオオオ!
 牛に戻る時の感覚は 人間の狭く小さな体に押し込められたものが一気に外に飛び出すような心地よい解放感があります。
ンモウォ モウモウ
モォオオ モオ
 わたくしの近くに歩み寄ってくださったのは ホルスタインの裕子ちゃんと和牛交雑種の静香ちゃんです。
 ホルスタイン牛は皆様よくご存じかと思います。白と黒の毛並みの愛らしい姿でよく知られ乳牛わたくしたちの代名詞ともいわれる代表的な種です。
 一方で 和牛交雑種というのは和牛と乳牛との混血の事で 静香ちゃんはお母様がホルスタインだそうです。毛並みこそお父様から受け継いだ黒毛和牛種のようですがホルスタインの血を濃く受け継ぎ 乳牛としても優秀な能力をお持ちです。
 ちなみにジャージー牛わたくしは薄茶色の毛並みを持ち 他の乳牛に比べて乳脂肪分が多く乳量こそは 二頭ふたりには劣りますが濃厚なミルクが特徴です。
 牛姿の静香ちゃんは濡羽ぬれば色の毛色と髪がきれいで 役牛を祖先に持つ凛々しい姿と乳牛の柔らかな様子が見事に調和しています。人間でいうところの中性的という オスとメスの特徴をうまく取り合わせた美しさをお持ちです。人の姿の時と同じポニーテイルも 少し前に突き出した角の格好かっこうよさと合わせて独特の可愛らしさを演出しています。
 また裕子ちゃんの方は ありふれた乳牛だよ なんてご本人はおっしゃいますが ちっともそんな事ありません! 整った毛並みは素晴らしく 肌触りも最高です。お目の周りが黒く お顔の真ん中が白い配色も人間たちが可愛がっている パンダ という動物と同じなので可愛さは折り紙付きです。少し小ぶりですが 横から少し曲がって上に伸びている角も裕子ちゃんの元気の良さとマッチしています。
 一言でいうと 二頭ふたりとも 牛の姿もとっても素敵なんです! 同じメスでありながらわたくしも胸が高鳴る思いです。そんな風に見惚みとれれていると……。
 ベロン……。
 ペロッ……。
モウッ! モウモウ!!
 お二頭ふたりが急にわたくしの顔を一舐めして驚きました。もぉ 毛づくろいを始めるなら言ってくださいまし。と思いましたが今は お互い人間の言葉は話せませんでしたね。これはボーっとしていたわたくしの方にも非があります。わたくしも負けじと頭と長い舌を駆使して 二頭ふたりを毛づくろいします。これは 毛並みを整えるのと共に 自分の匂いを相手に擦り付ける事で信頼関係を深める効果がありますの。
 このように牛らしく生きられるのも この学校に入ってからです。道を誤り人間として生きていたわたくし達を 先生方は顔色を変えずに愛を持って導いてくださいました。これには感謝しかありません。
 そして明日から再び人間としての生活を強いられるわたくし達ですが 今日だけは仲間同士の幸せなスキンシップを満喫したいと思いました。

 ――――――
 その日の夕方。帰宅したわたくしにメイドさんが告げます。
お嬢様 本日は奥様がお戻りになられておられます。大広間までおいでくださいませ
 この知らせはわたくしにとって意外なものでした。それを説明するためにも ここから少し我が家について触れておきたいと思っております。
 我が家の家族構成は 母とわたくし 二頭ふたりだけの家族です。父はわたくしが物心つく前に他界しております。母は一代で財をなして この屋敷と多くの執事さんやメイドさんを雇いながらも 日々を忙しくされています。
 お母様は数多くの牧場を経営し そこから得られるもので商売をしております。もちろんそれはあくまで表の顔。その実は そこで得た利益を使って同胞を保護する活動しておりますの。
 これは神華高校のように人間に紛れてしまった者を探すのではなく普通の牛から覚醒するものを探す事を目的としております。
 そのため お母様は仔牛の買い付けに日々奔走しておられます。しかし これはとても辛いお仕事です。わたくし達が手を差し伸べれば 幸せに生きられるはずのなかま 人間に変身できない というただ それだけの理由で切り捨てなくてはならないという事。そう全てを救えるのであればこの葛藤はありません。
 乳牛わたくしたち 生物としての性質上 人の手 を借りなくては繫栄できません。人間から独立するには 人に変われる仲間 が一頭でも多く必要なのです。
 この屋敷で働く者は 全てお母様によって救われた乳牛達です。慣れない人間の体と生活に 不安な彼女たちをお母様は丁寧ていねいに指導していったそうです。そのため 皆さんがお母さまをしたってくれています。
 仲間の為に身を粉にして働くお母様をわたくしも尊敬しております。そんなお忙しいお母様がわざわざお時間を作って わたくしを呼び出す事を不思議に思いながらも 制服から普段着に着替えて広間へ向かいました。

 ――――――

 広間には 多くの召使めしつかいさんが集まっておりました。その姿はいつものメイド服や執事服姿ではなく まるで昼間の歓迎会に集まった私達と同じ姿です。衣服を脱ぎ去る事で それぞれの役職や としての顔ではない。各々おのおのが一頭の牝牛としてこの場に集まっているのでしょう。
 そんな中にお母さまが両手で抱えるように大きな宝石箱のようなものを持って 白いワンピース姿で現れました。
 わたくしが皆さんにならって服にちょうど手を掛けようとしている所をお母様は手で制して首を振ります。
 裸の女性達に囲まれながら わたくしたち母娘おやこだけが服を着て人間のようにしているのは どこか居心地の悪さを感じます。しかし そのことにもきっと意味があるのだと神妙な面持ちでおりますとお母さまからお声が掛かりました。
千尋さん 急に呼び出してしまってごめんなさい。今日はあなたにどうしても伝えておかなくてはいけないありますの。だから こうして皆さんにも集まって貰いましたのよ
それは良いのですが 皆さまにもご関係が
そうです。でも お話するよりもまずは……こちらを見てください
 そういったお母様は 箱を開けてわたくしに中身を見せてくださいました。開けられた瞬間 中からとてもいい匂いが漂ってきてわたくし どこか懐かしい気分になりました。
 入っていたのは一対の大きな角と切られた髪の束。角の大きさや匂いからどうやら牝牛めうしのものではなさそうな印象を受けました。ただ その中身よりもわたくしが驚いたのは 箱が開け放たれた事により変化した周囲の空気の方です。
 眩暈めまいを覚えるほどの濃厚なめすの匂い。わたくし以外の全員が顔を赤くして 熱い吐息を漏らしながら息を荒くしております。
奥様……。申し訳ございません
 なんとか搾りだすように発言したのは この家の執事長さんです。
いいのです……。そのためにわたくしだけ……こんな格好をしているのですから…… それに母として……娘に伝えなくては……ならない事なのですから
 お母様も辛そうに頬をそめ 息を荒くしながら会話をしております。
……はい。それでは失礼いたします。……
 彼女はそのまま両手を床に突くとそのお姿をガンジー種の牝牛に変えました。それを合図に部屋中の女性たちは次々と牝牛めうしに姿を変えてゆきます。皆さん牛に戻った後も 鳴き声を押し殺して荒い息をしながら様子を見守っています。お母様のお話を遮らない為の配慮でしょう。広間が各種の乳牛達に取り囲まれたころやっと息を整えたお母様は静かに語り始めました。
千尋さん……。これは ……あなたのお父様です
お父様……
 牡牛おすうしの遺品だと思った時 亡きお父様に通ずるものであろう事を薄々感じましたが それでもお母様のお口から直接言われるとより現実味が増します。
 動揺するわたくしを気遣うようにお母様はゆっくりと語り始めます。お父様は 人間に変身できない普通の牛 であった事。また 立派なジャージー種の牡牛おうしであり 多くの牝牛めうしに自然交配でたねを与えた優秀な種牛であったという事です。そして 今ここに集まっている全ての牝牛達は全てお父様から胤を頂いて仔を産んだ母牛達である事を知りました。
あなたは お父様にとって初めての仔。彼女たちが産んだ仔供達の姉なのです。あなたにはこれから 長姉ちょうしとして 異母妹いもうと異母弟おとうと達の先頭に立って導く必要があるのです
 お母様を含め この場にいる皆さまは今だ現役の乳牛ばかりです。どの牛どなた わたくしにとっては尊敬できる牛達かたがたばかりです。そんな彼女達の血を引く仔供達の姉であるという事は大変 光栄に思います。
 しかし それと同時に兄弟姉妹がいないと思って育ってきたわたくしにとっては 責任と不安が募ります。そんなわたくしの様子を感じ取ったのか お母様は気遣ってくださいます。
あなたに重圧を背負わせてしまっている事には申し訳なく感じます。でも お父様が遺した血を一頭でも多く次の世代に繋いでいきたい。それが妻であるわたくし達の総意なのです
……お母様
 擬態している時こそ人間に近いわたくしたちですが 人化じんかの出来ない牛との間には生物としての違いはないそうです。牛同士の恋は相手の優秀な遺伝子を後世に残したいという純粋な願いのみです。その神聖な思いに感動するわたくし お母様はお父様の箱を差し出してきます。
千尋さん……。お父様を預かってくださる?
 はいと両手で大事に抱えたわたくしの目の前で お母様はワンピースを脱ぎ去り全裸のまま唸り声をあげると頭からは角を お尻からは尻尾を 両の手足から蹄が生やしてめすのジャージー牛に変わりました。
ウモォ……ウモオオオオ……
 お母様の悲しそうな鳴き声に呼応するように 部屋中の牝牛たちが一斉に鳴きだします。
モォオオオオオオオオ
 人間に変身する行為 人化 の有無でもうひとつ異なるのは 生きる長さです。人間と同じ寿命を持つお母様達と お父様との間には 長い年月の差があります。それは お父様がわたくしの年齢まで生きられなかったことを考えれば その辛さは容易に想像が付きます。これだけの牝牛めうしに愛されたお父様を想い わたくしも同じように鳴き声を上げたい気分ですが 母としてではなく各々が一頭の牝牛としてパートナーを想う声に水を差すことはできず その想いの深さに自然と涙が零れ落ちました。

 ――――――

 その夜 自室に戻ったわたくしは物思いにふけっております。今思い出されるのはつい先ほどの情景。
モウ モウモウモウモウ
 切なげに声を上げ腰を下げる一頭の牝牛と彼女のお尻の前に立つお母様。
ンモォオオオ
 前脚を振り上げて牝牛のお尻にお母様がのしかかります。すると先ほどまで切なげな声を上げていた彼女は。
…………
 静かに涎を垂らしながら恍惚な表情を浮かべぼっーと立ち尽くしています。これは牝牛の発情行動で 人間だと 自慰 がそれに近い物でしょうか。発情しためすに対しておすの代わってに別の牛がお尻へ乗り掛かってあげる。乗られた牝はお尻に掛かる荷重で自らを慰めるのです。
 広間中の牝牛達は入れ代わり立ち代わりにこの行為に及び お母様も乗ったり乗られたりして牝としての姿を晒しています。そうこれは言わば 牝同士の熱い交尾なのです。
 同じ一頭のおすを愛しためす達が その愛を今度はお互いに向けています。これが牝牛の群れというもの。
 牝同士の濃厚な愛情表現が頭から離れず わたくしは人の姿のまま自分慰めます。そしてさらに あの日 の光景がオーバーラップします。
……しずかちゃん。……ゆうこちゃん
 わたくしを人間世界の呪縛から解き放ってくださった大切なお友達。でも 二頭ふたりに対する思いは日に日に募り 強い友情はいつしか恋愛感情に変わって行きました。しかも欲張りな事にどちらか 一頭ひとりを選ぶ事が出来ず 二頭ふたりとも好きになってしまったのです。
 そんな悶々とした思いを隠していたある日。わたくしは見てしまいました。教室で隠れるように愛し合う静香ちゃんと裕子ちゃんの姿を。
 強く抱き合い口づけを交わして舌を絡める。時折 口よりはみ出る舌から粘液が滴り落ち 愛おしく互いの唾液を吸いあう姿。それが先程の牝牛たちの交尾と重なってわたくしの心は 寂しさと苦しさと切なさにさいまれるのでした。
 胸に手をやり乳首を指に添わせると 興奮のせいか母乳がにじみ出て参りました。もう片方の手は なかのから股の方へ 髪と同じ色の茂みを掻き分け 中指を割れ目に擦り付けます。
 昼間に毛づくろいしていただいた時に付いた 二頭ふたりの匂い。既にお風呂に入って落とされたはずの香りがわたくしの鼻と脳の記憶には鮮明に残っています。
 お母様たちのような群れをお二頭ふたりと作りたい。そんな想いを秘めながら わたくし 一頭ひとり 自分を慰めて眠れぬ夜を過ごしていきました。

 ――――――
 それから数日が過ぎたある日。
 委員会活動で遅くなったわたくし 夕日に染まる校舎を一頭ひとり歩いております。既視感デジャヴとでもいうのでしょうか。あの日と同じ光景です。
 幼馴染という時間の長さと同じホルスタインの血がお二頭ふたりを強く結びつけているのでしょうか? いずれも持ち合わせていないわたくしの想いは届かないものなのでしょうか……。そんなどうしようもない事を考えながら 愛する者の姿を求めて歩みを進めています。
 今日はもう先に帰ったかもしれない。連絡を取ればすぐわかる事なのに それができないのは愛し合っているお二頭ふたりの邪魔をしてしまうかもしれないという恐れと不安によるものです。
 スンスン スンスン……。
 匂いを頼りにわたくし 静香ちゃんと裕子ちゃんの痕跡をさがします。
 そういえば人間は探し物をする時 目に頼りきりで鼻はほとんど使わないものというのを元人間だった裕子ちゃんから教った事を思い出します。生まれた時から牛だったわたくしと静香ちゃんは大変驚いた事が印象に残っています。
 視覚と言う見かけだけで本質をない姿勢は実に人間らしいと思いましたが それまで あの生き物 との生活の中で嚙み合っていないものを感じていたわたくしには長年の疑問がストンと解決する思いでした。
 匂いに頼る探しものは時に視覚よりも早く そしてより正確に状況を教えてくれる場合があります。漂ってきた牝牛の甘い匂い。それは わたくしが間違うはずのない愛しいお二頭ふたりの物でした。

 これは更衣室からでしょうか? 教室とは違って窓のないドアを前に 目を閉じて視覚を閉ざし より集中して鼻を効かせる事で静香ちゃんと裕子ちゃんが部屋の中で二頭ふたりきりになっている事を知ります。
 耳をすませば聞こえる水音と 息遣い。人間は写真や映像などの視覚情報だけでも興奮できる淫乱な生き物だと聞きましたが やはりわたくしにとっては この音と声 そして匂いが強く心を揺さぶります。
……静香ちゃん。……裕子ちゃん
 目を閉じたまま胸とスカートに両手を伸ばしたその時 ふいに思わぬ声が掛かります。
ちーちゃん。呼んだぁ?
え?
 目を開けるとそこにはいとしい2つのお顔が わたくしを覗き込んでおられました。誰にも届かないはずのこの声は どうやらそのお耳に届いてしまっていたようです。そのまま あっと言う間に更衣室の中に引き込まれ 開かれたドアはピシャリと音を立てて閉まりました。
すみません。わたくし……
 とっさに謝るわたくしさえぎって。
覗き見なんて良くないな 千尋ちゃん
 微笑みかける静香ちゃん。そして。
悪い子は こうだ。……んっ
あっ ンん
覗きなんてしてません と言うよりも早くわたくしの唇は 静香ちゃんに奪い去られてしまいました。柔らかくも弾力のある唇。その感触だけでも十分であるはずなのに さらに静香ちゃんは舌でわたくしの前歯をヒタヒタとノックします。ああ いけません。いえ もちろん OK なのですが まだ心の準備が……。
 しびれを切らせた静香ちゃんは 開けて 開けて というように 舌で歯茎と前歯を舐め上げます。そのしぐさが愛おしく わたくし なし崩し的に静香ちゃんの舌を口内へ招き入れてしまいました。
 触れ合う舌の温かさと流れ込む甘ぁい唾液。静香ちゃんのだからこんなに甘いのでしょうか? それともこれも愛の味?
 初めてのキスの味に酔いしれてながらも徐々に慣れ やっとの事で自分から静香ちゃんの舌へ絡み付けようとした矢先に すっとお顔が離されます。唇が離れ二頭ふたりの前に唾液の橋が掛かったかと思うとすぐさま ツーっと滴り落ちて消え その名残惜しい様子に思わず。
ああんっ もっとぉ
 と はしたない声を上げてしまいました。体まで離れると二頭ふたりとも 胸元がぐっしょりと濡れ 母乳が染み出しています。ブレザーには互いの母乳が混ざり合って付着している事でしょう。それがつい先ほどまでキスをしていた事実と重なって さらに心がトキメキます。
ああもう 静香。ズルい! あたしも。ねっ。ちーちゃん。ぅんっ
ふぇ あむっ
 余韻に浸っていたわたくしを再び夢の世界に引き込むように今度は裕子ちゃんがキスしてくださいました。こうしてわたくしの大事なファーストキスとセカンドキスは 最も愛するお二頭ふたりにあっさりと奪われてしまったのです。
 静香ちゃんだけでなく 裕子ちゃんもわたくしの事を! その嬉しさと2回目という慣れから今度はより積極的になれました。
ん。ちーちゃ……。あむっ
レロっ ゆーこちゃ……。んっ
 きっとこれが 愛し合う という事なのでしょう。先程の静香ちゃんとのキスは どちらかと言えばされるがまま。静香ちゃんはわたくしを存分に愛してくださいましたのに 十分に応えられませんでした。それもあって 裕子ちゃんとのキスはより濃厚に 背中に回す手にも力が入ってより強く抱きしめ合いました。そのせいで押されあった胸からさらに母乳がこぼれ出し 服だけでなく床にまで水溜まりを作るように水音を立てていますがわたくし達はキスに夢中でそれ所ではありません。
むぅ 裕子! さすがにもう長すぎだ
 時間を忘れて 静香ちゃんを一頭ひとりきりにしていた事を思い出し また彼女の余りの物欲しそうな声にわたくし達は慌てて唇を離します。
先に名前を呼ばれた方からキスするという約束だったから あんまり長いと悪いと思って途中で我慢したのに……
 あら そうだのですね。意識してませんでしたが 静香ちゃんが先でしたわね。もちろんお二頭ふたりへの想いは平等ですのよ。
それに千尋ちゃんも! 私の時はあれほど積極的ではなかったじゃないか。二頭ふたりとも 私の事を除け者に……
 まあ なんて可愛いらしい。ムクれてしまった静香ちゃんのお顔の愛らしさに つい……。
あむんっ
ふぇ? んン!
 三度目のキスは自分から 今度こそはわたくしの方からも静香ちゃんを愛します。先程とは打って変わって動揺している彼女を攻めつつ 目線の端で笑顔の裕子ちゃんを見つけます。先程までの狂おしい程の恋焦がれる思いから一転して 愛情あふれる思いに満たされる事となり わたくしは幸せを感じました。

 ――――――

 あの日 覗き見てしまったわたくしの事は しっかりと悟られていたようです。そもそも 学校内で行為に及んでしまった事自体 わたくしへの想いが深くなりすぎてお二頭ふたりでなぐさめ合っていたからそうです。
 三頭とも同じ想いに身を焦がしていた事を考えるとそれだけで胸が熱くなり またどうしてもっと早く気が付かなかったのだろうという後悔はありますが それでも相思相愛になれた事は喜ばしい限りです。
 こうして あれほど悩やんでいた事とは裏腹に あっさりとわたくしの静香ちゃん 裕子ちゃんへの想いは達成され そのまま 群れ が誕生しました。
 これからの目標は わたくし達を三頭とも愛してくださる素敵な牡牛を探すことでしょうか?
 それとも私の異母妹いもうと達や 深雪みゆきお姉様 由香里ゆかりお姉様をお誘いして牝牛の輪を広げて参りましょうか?
 とにかく お母様達のような素晴らしい群れになるよう わたくしがんばります!