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獣化作品 No.17

余所者

作者 DarkStar

「うわ・・・・すっごぉ・・・・・・風が気持ちいい・・・・。」

都会生まれの都会育ちの美代にとって、

この村の自然あふれる姿に心打たれ、
しばらく、風に身を任せていた。

ここは、神代村は、人口数百人の小さな集落。

数年前に、隣接する宮前市と合併し、
その一部となっているのだが、いまだにここは、『神代村』と呼ばれている。

彼女の父の仕事の関係で宮前市に転勤となり、
家を探したのだが、村と違い発展した街の地所はどこも開いておらず
しかたなく、この村の振興住宅地に引っ越してくる事になった。

しかし、どうもこの土地は、保守的な家が多いらしく、

引越しの挨拶に行った両親は、
『他所のもんとは口は聞かん!!!』
と門前払いを喰らっているのだった。

そんな状況で明日から始まる学校。
言い知れぬ不安が美白を襲った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

美白が訪れたのは、この集落、唯一の分校。
田舎の学校らしく、生徒の数が極端に少ないため、
小、中が一緒になっているようだ。
校舎の古さもあって、まるで映画の撮影にも使えそうな雰囲気だ。

「そう・・・・・たいへんだったそれはわね。」
彼女は、山下萌。 美白の担任というか・・・・
他に分校長がいるだけなので
実質的に、彼女がこの学校の唯一の教員と言えるだろう。

まだ、若く先生になってまもないといった雰囲気だ。

「は・・・・はい・・・・・」

「先生も、半年前にこっちに来た時は大変だったわ。」

「え、先生もですか・・・・・。」

「ええ、でも、村の『仲間』になってからはとてもみんな良くしてくれるわ。」

にっこりと笑うその顔は、すがすがしさというよりも、
寧ろ不気味さを感じさせる笑みだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
萌につれられ、教室に入る美白。
都会の中学と違った教室の木の匂いが飛び込む。

一つのクラスに同じ年、同じ学生服に実を包んだ都会の中学とは違った
独特の雰囲気が美白には新鮮に感じられた。

「今日から、皆さんと一緒にお勉強する事になった 忍村 美白さんです。」

ごくごく普通の転校生紹介。
分校で、さまざまな学年の生徒が一緒の教室にいることを差し引いても、
彼等の反応は異常といえるものだった

「えーーーーえええええええ!!!」

「いやだぁ。他所のモノとは口をききたくな~い。」

どうも昨日の村人達と似たような反応。

「だめですよ。そんな事言ったら、・・・・
 それに先生だって、半年前ここに来たばかりの
 他所者ですよ。」

「「違う。」」

「そうだよ。先生は、もうそんな奴とは違うよぉ」

「先生はもう『この土地のもん』だ。」

「そうよ。そうよ。」

「みんなあ、仲間はずれは、だめだよぉ。
 それに、萌の言う事をちゃんと聞くですよ。」

というのは、大体席の真ん中くらいに座った
短パン姿のよく似合う男の子。
身長だけでいうなら、小学校の4,5年生といった所だろうか。

教師を名前でしかも呼び捨てにしている彼に対して周りは一切
気に留める様子もなく。

当の本人も

「そうですよ。コオちゃまの言うとおりですよ。」

と、まったく気にしていない。

「僕の隣が空いてるから・・・・・・おいでよ・・・」

「ありがとう、・・・・えっと、・・・・コオくん・・・・でいいかな?」

その瞬間。ギロッ!!!と
クラス全員の顔が、美白の方へ向く

「あんたなんなの!!!『コオちゃま』に馴れ馴れしいわよ!!!。」
というのは、彼の後ろに座った女の子の甲高い声。

「そうだ、そうだ、テメェ、『他所者』のくせに!!!」
それと共に男子の力強い声も一緒になり、

皆、口々に美白を攻め立てる。

「「「余所者!!!」」」

何気ない一言でクラス全員から、目の敵にされ、
立場のない美白

「やめなさい!!!」

と大きな声で制したのは、萌。

よかった。これで・・・・と思った安心に胸を撫で下ろす美白
しかしその耳に先生は、信じられない一言を言った。

「忍村さん。コオちゃまに、失礼よ。
 ちゃんと『コオちゃま』と呼びなさい。」

教師に両肩を力強くつかまれ、顔を近づけられる美白。
萌の目は完全に据わっている。

「せ、せんせい・・・い、痛い・・・・・。」

「いいから、『コオちゃま』と言いなさい!!」
怒り余り声を荒げる。

すごい勢いの教師を生徒達も止めるどころか
同じ雰囲気でにらんでいる。

そんな孤立した教室の中で一人だけ、美白を味方してくれるものがいた

「やめるです。萌。 みーちゃん。をいじめたら『めッ』だよ。」

どうやら、みーちゃんというのは、美白の事のようだが、
美白自身、教師に肩をつかまれ、そんな事を気にする余裕は全くない。

相変わらず、教師を名前で呼び捨てするコオ。

「でも、コオちゃま。このクソガキが!!!!・・・・・・。」

教師の声と顔は、さっきほどまで穏やかなものから一転。
人の怒りの面ではなく、もはや鬼や、野獣のそれだ。

その口からはまるで牙のような尖った犬歯を
剥き出しにしている。

口からは、透明な液体が流れ落ち、
まるで犬か何かが敵を威嚇しているようにも見える。

「萌~。僕の言う事が聞けないですか?」
とにっこり首を傾げるコオ。

その様子に手から力が抜けるように美白から離す萌。
傷にこそなってはいないが、指の後がくっきりとついている。

「も、もうしわけありません。コオちゃまぁ
 おゆるしください。」

と教師が生徒に向かって深々と頭をさげ陳謝する。
その目には、涙が浮かんでいた。

「ちゃんとごめんなさいできる仔は、いい仔、いい仔だよ。
 さあ、授業を始めるよ~。」

とコオがいいながら、下げられた頭を小さな手で撫でると
しぶしぶ教壇に戻る萌。

「グゥウウ・・・・・・・・・・・」

一瞬だけ、美白の方を向いた萌、不気味な唸り声と一緒に睨らんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そうだ、みーちゃん。僕が村を案内してあげるです。」

先ほどまでのやりとりが恐ろしい。美白

『はい』と応えれば、
コオちゃまになれなれしい、お手をわずらわせるなんて。とか

逆に『いいえ』と応えても、
コオちゃまのお心使いを無にするなんてとか言って怒られそうだ。
一度でもあの異様な空気に飲まれたら、
とてもここにはいられない。

美白は、恐怖のあまりどちらも応えられずにいる。

「コオちゃまそれなら、私が・・・・・」

とは、コオの後ろに座った少女、確か名前は鈴莉(すずり)とか言っていた。
年の頃は、美白と同級かもしくは一つ二つしただろうか。

「あ、あの・・・あたしは・・・・・・・」
やっと声を出した美白に、

「あんたの言う事なんか聞いてない。汚らわしい。『他所者のくせに』」
と切り捨てる鈴莉。その目つきは、先ほど怒った萌と同様にとても冷たかった。

「りーり。だめだよ。意地悪いっちゃ。すぐに『この村の仲間』になるんだから。」

「でも、コオちゃまぁ。」
美白の時とは違う鈴莉の代わりよう。

元気のあるときならいざ知らず、
初日から疲れきりそれこそ、泣きたいのを必死で堪えている彼女には、
同級生の変わりように突っ込む事はおろか、不満に思うことすら億劫であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『チリン、チリン、チリン、チリン』

授業終了の鐘はチャイムでなく、ハンドベル。
校舎が狭く、生徒の少ない教室には、これで十分大きく聴こえる。

(やっと終わった。・・・・・もう帰ろう・・・・・・)

最悪ともいえる彼女の転校初日の授業がすべて終わり
帰宅する。

授業といっても、分校のそれは、すべて自主学習。

教師にも嫌われた彼女は、一人さみしく
ひたすら、問題集と格闘する事で孤独に耐えるしかなかった。

(こんなにまじめに勉強なんて初めてかも・・・・・・)

黙って席を立ちそのまま、誰とも口を聞かずそのまま、教室を出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

美白の家は、学校から遠いという事もないが
それなりに距離はある。気持ちが沈み重い足を何とか上げながら、
美白は家路を急ぐすると。

「わあああああ」

目の前にバッと飛び出す人影。

「きゃああああああああ」

突然のそれにびっくりし、思わず大声を上げてしまった美白。

美白を脅かした張本人は、逆に美白の声にびっくりして
尻餅をついている。

目を丸くした美白の顔をみて、
短い裾のズボン叩いて砂を落とすと。

「駄目だよ。勝手にかえっちゃってさあ。
 この村を案内するって僕、言ったでよね。」

「え、・・・・で、でも・・・・・」


「いいから、いいから・・・・・・」

戸惑う美白の腕を掴んで、引っ張るコオ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

村中をつれまわされた。美白。
都会育ちの彼女にとって、山道を駆け回る事は
体力的にきつかったが、それも、一生懸命美白を案内してくれる

コオの姿に負けていられず。
美白も必死にその後をついていった。

最後に訪れたのは、村の高台にある神社。

「ここは、山神様の神社。僕の家だよ。」

そう紹介してくれた境内は、お世辞にも流行っているとは言えず。

人気はほとんどない手入れが行き届いている。

本殿も、建物事態は時代を感じさせるが、
寂れている様子もない。

「ちょっと、待っててね。」
と言い残し、
トテテ・・・・・と音がなるようにかわいく走っていく、コオ。
用があるのは、母屋。つまり彼の住まいだ。

ちょっととは言ったがいつまで待って要ればいいのだろうか。
そう思いながら、美白が待っていると・・・・・・

「ああ、何で神聖な場所に他所者が!!!」
と大声に振向いた先には、鈴莉。

「だめよ。鈴莉ちゃん。コオちゃまが直々に彼女を呼んだんだから・・・・」
と階段を登ってくるのは、担任の萌。

「でも、せんせー・・・・・。」
とこちらはひどく不満そうな声。

「どうしんたんだよぉ。うるさいなぁ。」
と母屋から出てきたのは、コオ。
服を着替えてきたのだが、その格好は巫女さん。
サイズが少し大きいのか

そう、お正月などにおみくじや弓矢を売っている『女の人』の事だ。

なぜ男の子が女の人の格好を・・・・と美白の頭に
はてなマークがいくつも浮かんだ頃。

「やーーーん。こおちゃま、かっわゆういいいいい。」

つい数秒前まで、美白をにらみつけていた。鈴莉が、コオに飛びつき
膝や靴下に砂が付くもの返り見ず
顔を摺り寄せる。

「まったく、りーりは、甘えんぼさんだね。
 あ、萌も来てたんだ。」
と鈴莉の髪をやさしくなでる。

「はい。」
十ほども年の離れた少年に顔を真っ赤して、よろこぶ萌。

巫女服の長い袖に手を突っ込みごそごそとまさぐると、
小さなゴムゴールを取り出す。

「は、はっ、はっ」
それを見た瞬間、萌は舌を出し、息を荒くしている。

「ほら、萌~。・・・・・・とってこーーい。」
とコオがボールを投げると、

投げられた方向に向かって、
「わんわんわんわん」
と声を上げながら、四つん這いで駆けていく萌。

手入れの行き届いた綺麗な爪がボロボロになることも、
短いスカートから、下着が見えている事も
自分は教師であり、生徒の目の前で恥ずかしい行動を取っているという意識も、
全く気にせず石畳を走っていく。


鳥居の先、神社まで続く長い階段下へ向かって転がっていってしまった
ボールを追ってそのまま、萌は、美白達の視界から消えた。

その異様な姿に美白は立ち尽くしたまま固まってしまう。

「ああああ、コオちゃまぁ、だめぇ、だめですぅ。」

少女の甲高い声、驚きの顔のまま、顔だけを傾けた美白の目の前には、

女の子の胸にすがりつき制服のそれをたくしあげ、
白いふくらみの中央のほのかにピンク色の
粒を口に含むと、そのまま、口を膨らませ力いっぱい吸う。

少女とコオの身長の差で彼女の胸の位置にちょうど
彼の口元が来ている。

「あああん、だめ、だめです。そんな。そんな勢いよくす、吸っちゃあ・・・・」

まるで母乳をすする子供のように
「ああああ、コオちゃまぁ、だめぇ、だめですぅ。」

まるで母乳をすする赤子のように鈴莉の胸にすがり、

チューチューと音を立てて吸うコオ。

その顎をつたう白い液体。
甘い独特の匂いを発するそれは、ヒタヒタと
地面に滴り落ちていく。
「ん、うん、うん、ん、ん、・・・・・・・・」
喉を鳴らして胸から出る液体を喉に流し込むコオ。

「ひゃん、はあああん、あああああああん。」
と大きな声を上げて腰砕けを起こしたように、その場に経たりこんでしまう。

腕で口元を拭う少年。
口元についた白い物が、腕につき、てかてかと光っている。

すると少年の体が、ビクンと痙攣すると、
その体が変化していく。

発展途中で、筋肉もついていないほっそりとしたやわらかい腕を
程よく脂肪がつく。
短い指先は、細く長くなり、丸みを帯びた爪は、綺麗な楕円形に変わっていく。

肌蹴た待ったいらな胸が大きく膨らみ
ぶかぶかの白い服が引きちぎれてしまうほど押し上げられる。

少年の短い髪が長くなり、
肩を、・・・背中を覆い・・・腰まで伸びていく。

その髪の天辺からピンと尖った三角の耳が立ち
袴を波打たせて、巨大な毛ダマリがぶわっと、生えてくる。

「あ、あああ。ああああ。」

「ふふ、どうしたの・・・・・美白・・・。」

目の前の人物は、美白に声を掛けてくる。

数秒前まで少年だったその声は、
妖艶な女性の物に変わっていた。
うれしそうに、ぱたぱたと背中で揺れるそれは、
きれいな黄色の毛で先にいくほど細く白くなった狐の尻尾だった。

「はあああ、弧緒(コオ)様ァ」
と彼女に言うのは、両足のふくらはぎを地面につけ、
足をM字型にして、座り込む鈴莉。

彼女の頭から、白く尖った角。
顔の横から生えた耳には、白と黒の毛が生えている。

そして制服のスカートの裾には、
先に房のついた斑模様の物。

「なにが、一体・・・・どうなっているの。」

顔を青ざめ、振るえだす。美白の後ろから。

「わん、わん、わん。」
という声。彼女の横を通りすぎた

それは、頭から垂らした茶色の耳を振り乱し、
短いスカートから見える肌色の尻から、
丸まった尻尾をうれしそうに振って、四つん這いで走る。
萌の姿だった。

その口には、ゴムボールが咥えられ、
それを落とすまいと、
鋭い牙がガッチリと噛まれていた。

「いい仔ね。萌。・・・・・・・」
萌からボールを受け取り、ながら、萌の髪に触れ、
やさしく頭を撫でる弧緒。

頭を撫でられた萌の手や足を耳や尻尾と同じ毛が生え。
鼻先が伸びたかと思うと、女性教師は、完全に犬の姿に変わってしまった。

「せ、先生が犬に・・・・・」

「さあ、待たせて、ごめんね。美白。この仔達ッたら甘えんぼさんだから。」
そういった彼女の手を犬と化した女教師は、ペロペロと舐める。

「いや、こないで・・・・・こないでぇ・・・・・」

声を震わせる美白

「うううん。さあ、この子は何がいいかしら・・・・・」
顎に手を当てて、首をかしげて考え込む狐耳の女。

「弧緒さまぁ・・・・牛さんが少ないですぅ・・・・・
 弧緒さま。牛さんにしましょうよぉ」

そういうのは、鈴莉。

目を閉じて、しばらく瞑想するようにしていた弧緒が

「そうねぇ、・・・・確かに牛神様の仔がちょっと少ないわ。
 じゃあ。・・・・・・そうしましょう。」

「○、▽、×、%・・・・・・・・・」

両手で特殊な印を組み。
なにやら、聞き取れない呪文を唱える弧緒。

その周りふわっ、ふわっとに青白いものが、漂うと・・・・・。

「ああ・・・・・・ハナぁ・・・・ハナ・・・・うれしいい・・・。ハナが来てくれたんだ。」

ユラユラと揺れる白い物体に目をやり、
両手を体の前で組みながら、感動するような声を出す。鈴莉。

弧緒の周りに漂っていた物体がいきなり向きを変え、美白の方へ向かってくる。

「きゃあああああああ」
と身をかがめようと美白の前でそれはスッと消えてしまった。

「なんだったの?今の・・・・・」
しかし、体に感じる違和感。何か体の中で暴れているような感覚。

その不思議な感覚に首をかしげていると・・・・。

「あんた!!!、早くハナに・・・『わたし達に』従いなさいよ。
 全く、せっかくハナがあんたみたいなのに入ってくれたのに!!!」

鼻息を荒くしする鈴莉。

あれこれ、混乱している上に、意味不明の言葉と
理不尽な怒りに戸惑う美白。

そこへ・・・・・。

『ンモオオオオオオオオオオオオ!!!』

境内に響き渡る牛の啼き声。

「あああ・・・・・・牛神さま・・・・・」

半ばパニック状態を美白を置き去りにして
一人盛り上がる鈴莉。


「ハナ・・・・早くしないと・・・牛神様に失礼よぉ・・・・・・・
 ・・・・あんた、まだいたの?さっさと消えてハナに明け渡しなさいよ。
牛神様の御前でいつまでその汚らわしい姿をさらしてんのよ!!!」

言葉の前半部分は、まるで愛しい恋人に声を掛けるようにやさしく、
その後の部分は、まるで親の敵のように憎しみを込めて言う鈴莉。

そういって、靴を脱ぎ、ソックスを引っ張る。
中から現れた足は、爪先に黒々とした蹄が見える。

そのまま両手を着くと、
5本の指は、2つの太い爪だけ残し、消え。
制服を引きちぎるように体が大きくなったいく。

「モオオオオ、モオオオオオ・・・・・・」

お尻に張り付いたスカートの破片を尻尾で払い落としながら、
ホルスタインとなった鈴莉は大きな声で鳴く。

「モオオオオオ・・・・モオ・・・」
(ハナ、早く、早くぅ。早く牛になろう。)

モオとなく牛がまるで自分に話しかけているように感じる美白。

「え、あ・・・・・あ・・・・・・」

頭がぼーっとする感覚。
大きなものに取り込まれ、溶けていく感覚と同時に、
くっきりとしてくる別の意志。

「あ・・・・・あああ・・・・うん。ちょっと待っててね。『レナ』・・・・
 あと・・・・・もう、もおおお、ちょっとだ・・・から・・・・・」

そういう美白のスカートから尻尾が飛び出し、
フルフルと揺らしながら、
長い髪を持ち上げるようにして、白い角が生えてきた。

「うもおおおお、うもおおおおお・・・・・・モオオオオオオオオオ!!」

牛の啼き声が響き、その地に『人』の姿は無くなった。

『ウモオオオオオオ、ウモオオオオオオオオ』

「「モオオオオ、モオオオオオ!!!!」」

天から響く雄牛の声にあわせ、
地上で啼き声を上げ続ける2頭の牝牛。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらく、啼き声を上げ続けた牛たち。

『ウモオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

最後に一際、大きな啼き声を上げ、
牛の神は姿を消したのであろう、重苦しい気配が消えた。

「モオオオオ・・・・・モオオオオオ」
「モウモウウ、モー、モー」

2頭のホルスタインが身を寄せ合い
鳴いていると、
そのうちの一頭の体が小さくなっていく。

巨大な乳房が、前脚の間に移動し、
二つの豊かな含み。

角の合間から生えていく黒い毛が長く伸びていく。

前後の蹄は、割れるように5つに分かれていく。

体を覆う白と黒の毛が無くなっていくと、
肌色の皮膚が顔を出す。

細長い顔が短くなり、角がなくなると

そこには、人・・・・・美白と呼ばれていた少女が
しゃがみ込んでいた。

「おめでとう。『美白』ちゃんは、貴女は、
『他所者』・・・・・・よその『人間』じゃなくて
 この土地の『物』になったわ。・・・・・・・・・」

狐耳の女性がやさしく『美白』に声をかける。

「ありがとうございます。狐緒さま・・・・。」

そういって頭をさげた少女の頭に触れられる手。

「ねえ、みーちゃん。
 みーちゃんは誰の物?」

上から聞こえる声は、幼い少年の声。

「・・・・・・山神様方の物・・・
 ・・・・・・神代の物・・・
 そして・・・・・狐緒様・・・・・コオちゃま・・・・の物・・・・・です。」

「ふふ、いい仔ねえ。『美白』ちゃん。」
今度は妖艶な女性の声。

撫でる手が次第に小さくなっていくと、
狐耳の女は消え、再び巫女服姿の少年となった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ハナ・・・ハナぁ・・・・」

昼休みの校舎裏。

制服の下から、はやした尻尾を振り鈴莉。
頭から生えた白い角が美白にあたらないように摺り寄せられる。

「美白だっていったでしょぉ。
 『レナ』だって、今じゃちゃんと『すずり』って言われてるじゃない・・・。」

顔を摺り寄せられる美白も、鈴莉と同じ牛耳姿だ。

「えー!!、『ハナ』を汚らわしい人間の名前で呼ぶなんて、
 あたしできないよぉ・・・・。」

頭を離し、顔を向け、口を尖らせる鈴莉。

「モオオ!!、鈴莉ったらかわいいんだから・・・・・。
 でも、そういう決まりだから、・・・・・早く気に入ってね。あたしの新しい名前・・・・。」

少女のちいさな口から太い舌がぬっと伸びると、
口元から、唾液をたらしながら、鈴莉の顔を舐める。

「うん。わかった・・・・。ハ・・・じゃなかった『みしろ』がそういうなら・・・・。」

今度は、鈴莉が、美白の顔を舐める。
ねっとりした液体が、頬との間に橋を作り
ゆっくりと千切れていく。

「・・・・・・ありがとう。でも、ここの草おいしい。ゴフゥ・・・・ん、ゴグッ」

草を反芻しながら、喋る美白。
小さなゲップと共に、やわらかくなった草が口の中に戻り
再び胃へ送り返す。

「でしょ、でしょ。ここの草、本当においしいんだよ。・・・・
 ゴボッ・・・ん、ゴックン。
 程よく日陰もあって、お昼には持って来いだよね。」

こちらも、つられる様に反芻し、草の味を噛み締める。

「ホント・・・うちに帰ったら、人間の食事でしょぉ、
 まずくってさあ・・・」

以前は、慕っていた両親も、
今の彼女にとっては、『汚らわしい人間の2匹』・・・・・
忌々しいように顔をゆがめる。

「わかるわかる・・・・あいつら、あんなまずいものよく食べてるわよね。」

「抜け出して、家の周りの草むしったら、変な味がするし・・・・」

「ああ、美白の家の周りって、街の人間どもが、『開発』とかいって、
勝手に土地を掘り返したり、いろいろやったせいで、ろくな草が生えないんだよ。」

「もう・・・人間たら、ろくなことしないんだから・・・・。」

だんだん引きつった顔になっていく美白。

「つらいね。美白・・・・。美白の家の奴ら、まだ『他所者』だから・・・・・
 人間の『成獣』を変えるのっていろいろ準備がいるみたいだし・・・」

「でもね・・・この前、狐緒さまが、『あいつら』連れて、土曜日に神社に来てだって・・・・・」

それは、彼女の『両親』が『この村の物』になる事を意味する。

「えー、よかったねえ、美白ぉ」

「うん。後もうちょっと我慢すれば、
 あの汚らわしい人間の『家族』から開放される・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人の牛娘の様子を木の上に上って見守る少年。コオ。

ニコニコ顔で少年は
「りーりもよかったね。『仲間』ができて・・・・
 そういえば、学校に牛さんいなかったねえ・・・・」

というと、急に目をきりりとし、口元をわずかに
ほころばせ。

『そうね・・・・2人とも、とってもかわいいわ。』
少年の同じ口から出てきたのは、
妖艶な女性の声。

「ええー、狐緒・・・・僕は、僕は・・・・」

『もちろん・・・・・・かわいいわよ。』

見た目こそ、独り言のようにしか見えないが

音だけ聞けば、会話をしているように聞こえる

「えへへへへ。」


「コオちゃま~。そんな所にいると、危ないですわよ~」

と地上で犬の尻尾をパンパンに張らせながら、怒っている萌だ。

「しかたないな・・・・・戻ろうか・・・・・狐緒・・・」

『そうね。でも、怒った萌も、かわいいわ。』

「・・・狐緒ったら・・・。気楽だよね。・・・・・・怒られるの僕なんだもん。」

『そういわないで、かわいいコオが怒られてしょんぼりしている姿は、
 私もつらいわ。』

山神様の代行、神主にして、巫女たる

コオは、渋々気から下りていく。

神代村。 多くの神々とその眷属だけが住む神聖な村。

それを汚す他所者はいない。
なぜなら、ここに来たら最後、一人残らず、村の眷属にされてしまうのだから・・・・・。

	
おわり
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