乳牛娘たちの生活 その3 ~乳牛の営み~
作者:DarkStar
人間であろうと、 獣であろうと生きていくには食わねばならない。また、 より文化的な生活を送るためには先立つものが必要である。しかも、 獣がその本性を隠して人間社会で生活していくのには難しい。まして、 人間を捕食者として見ている草食の獣にとっては、 人間に交じって仕事をする事は精神的な苦痛を伴う。そんな彼らが人間とうまく距離を置きながら報酬を得るには、 環境を整備することが必然であるだろう。
――――――
「じゃあ、 あたし、 これからは寮から学校に通うから」
突き放すような口調の娘に慌てて母親が声を掛ける。
「待ちなさい。
「離してよ。あたしは、 早くこの家を出たいんだから」
掴んだ手をまるで汚らわしいモノであるかのように突き放す娘。
「まあ、 母さん。裕子も、 もう高校生だ。好きにさせてあげなさい。」
「貴方は、 そうやって、 いつも裕子に甘いんだから。」
「一人暮らしだって悪くない。学校の寮なら安全だろう。まあ、 卒業までの間だ。」
娘に甘い父と、 怪訝そうな母。
(そうね。あたしが、 あなた達の 『娘』 でいるのも卒業までの間だけだから。)
彼らの願いとは裏腹に高校を卒業後、 娘は自分たちの前から姿を消す事となる。既にこの時点で 『娘』 と自分たちが決定的すれ違っている事を彼らは知らない。
そう彼らの娘であった 『人間』 は、 もうこの世のどこにもいないのだから。
――――――
あたしの名前は
普段は人間のフリをしているけど、 本当の姿は乳牛でお馴染みホルスタイン牛。つい 2 ヶ月ほど前までは人間だったのだけど、 ひょんなことから牛へと変わってしまった。なんでも大昔、 人に化けた牛が人間と交わって子供を作り、 その血が代を重ねて巡り巡って、 あたしの代で先祖返りを果たしたという事らしい。
うちの学校はあたしのように獣の血を引く人間を元の動物に戻すことを目的に生徒を集めているらしい。自分で決めたつもりの志望校だったけれど、 実はかなり誘導されていたというのは後から知った事。
でも一歩間違えれば、 人間として一生を送る羽目になっていたかと思うとゾッとするので、 あたしをこの学校に引き込んでくれた先生たちには感謝しかない。
そんな、 あたしが直面している問題は家庭環境だ。さっきも言ったけど、 あたしは元人間なので人間の
生まれ変わって初めて自宅に帰った時、 家に染み付いた人間の匂いを嗅いで具合が悪くなり、 また心配する
そういった事に関連して寮への手続きも早々にやってくれた。とはいっても、 入寮自体は混みあっている事もあって今になってしまったけど。まあ、
学校を卒業したら、 この家から出ていくための足掛かりとして、 あたしは引っ越しの準備を着々と進めていくのだった。
――――――
そして寮への引っ越しの当日。
三頭の
静香とちーちゃんは、 あたしと違って生まれつきの牛で、 表向きは人間として育てられていたせいで、 最近まで自分を人間だと思い込んでいた。確かにあたしが人間だった頃、 静香ってちょっと変わった子だな思っていたけれど、 自分が牛になってみると逆にそれらは納得できる事ばかりだった。
あたしと静香のママがホルスタイン種。ちーちゃんがジャージー種で、 静香が黒毛和牛と乳牛のハーフ。そんな牝牛が四頭いればどんな荷物でも楽勝。何せ、 あたしらは人の姿でも一人用のベットやタンスなんかを一人でひょいっと運べるような怪力の持ち主。
長身でコテコテの剣道娘である静香ならばまだしも、 小柄で
だがしかーし。正直言うと、 その怪力の出番は残念ながらなかった。
まずは衣類。牛へと生まれ変わって以降、 あたしは体形が大きく変わったので着られる服がそもそも少ない。またそれ以外の物に関しては、 人間だった頃の自分の匂いが染みついてる物ばかりなので、 引っ越し先へ持って行きたいとすら思わなかった。
そんなわけで引っ越しと言いつつも、 新生活のためにまず買い物。
始めは、 あたしらと同じ乳牛が経営する洋服屋さんで服を選ぶ事から。さっきも言ったけど、 あたしは牛に生まれ変わった後、 静香とちーちゃんは牛だと自覚した後から、 人化した時の胸の大きさが段違いに大きくなった。なにせ、 ブラのカップサイズでいうとアルファベットを指折り数えて手が足りない感じ。今まではサラシなんかを巻いて、 なんとか誤魔化していたけれど、 さすがにきついのでこれを機にみんな新しいサイズの服を買うことになった。
あっ、 そうそう! 買い物に当たって先立つお金の話。あたし自身の事情を
そういう事もあって、 事前に静香ママと相談して、 衣類、 生活必需品などの細かい予算を決めている。ここ最近は 『あの家』 というかプライベートの時間が不快な毎日だったので、 この人間に立ち入られない買い物が楽しくてしょうがなかった。
――――――
買い物が終わって、 静香とちーちゃんは荷物を置きに家へ帰り、 あたしと静香ママだけで寮の部屋へ荷物を運び入れ終わった。これで
安心したのか、 あたしの視界が歪む、 あ、 あれ? あ、 あれ? おかしいな涙が出てきた。どうして? あれ? ……。そっか、 そっか。あたしのパパとママはこの世界のどこにもいないんだ。だから、 だから……。
そんなあたしを後ろからそっと抱きしめてくれる暖かい温もりがあった。
「静香ママ?」
それは静香のママだった。そっとやさしく温かい親の温もりに心がほんわかになる。
「裕子ちゃん。泣かないで。」
「で、 でも……。」
「私もね。両親が人間だったの。」
「!」
「だから貴女の気持ちはよくわかるわ。」
そっか、 静香のママも、 あたしと同じだったんだ。ほっとした気持ちと、 この牛さんならあたしの気持ちを分かってくれると理解した途端にあたしは、 声を上げて泣いていた。
どうして、 あたしのパパとママは牛じゃないの。どうしてあたしだけ。
泣き出すあたしをそっと抱きしめ、 まるで自分の仔供のように静香ママはあたしの頭をそっと撫でてくれる。
「裕子ちゃん、 生まれ変わった貴女にもう家族はいないかもしれない。でもね。」
やさしく、 ゆっくりと穏やかに静香ママは続ける。
「貴女の本当の家族はこれから作られていくのよ。静香も、 千尋ちゃんもいるからきっと大丈夫よ。」
そう、 こんなに苦しいなら人間として生きる方がよかったか?
それは
だって愛する静香とちーちゃんと別々に生きるなんて、 あたしには考えられない。そんな所にはあたしの幸せはない。
あたし達は、 素敵な
そう思ったら、 涙は自然と引っ込んでいた。元気が出てきたんだ。
「ありがとう。静香ママ」
「ママと呼んでくれていいわ。だって静香と千尋ちゃんとはもう 『群れ』 を作ったのでしょ。」
「え、 あ、 うん。」
改めて言われると顔が赤くなる。まだ旦那様は決まってないけど、 愛し合う
「だったら、 私の娘も同然よ。だから、 ね。」
「うん。ありがとうママ。」
泣きはらした顔を笑顔にしてあたしは元気に答えた。
――――――
さて、 こうしてあたしは、 人間から独立する為の第一歩をスタートさせた。とは言っても、 いつまでも学校やサポーターの
そんな横には、 静香とちーちゃんの姿があった。寮は学校のすぐ隣、 通学はともかく下校時には
もちろん、 完全な牛の姿に戻る事が一番のリラックスできるけど、 スペースの都合で中々そういうわけにもいかない。ただでさえ、 あたし達、 乳牛は
「どうだ、 バイト先は決まったのか?」
うんうんと唸っているあたしに静香が声を掛ける。組んだ両腕に重たそうなおっぱいが乗っかっていながらも攻撃的に突き出している。前を向いている立派な角も相まって、 なんか強くてかっこいい感じ。
「それがなかなか……。これってのがないんだよね。」
ヤル気はあるけどノリ気にならないんだよな。
「そちらは、 学校が選別してくださったアルバイト雑誌ですのよね?」
ちーちゃんが不思議そうに、 本とあたしの顔の間から中身を覗き込んでくる。小柄な肩幅に両腕をギュッと寄せているので、 おっきなおっぱいが腕に食い込んではみ出てる。角も太く立派で小さな身体と大きいそれらのギャップもかわいい。
いやあ、 それにしても眼福だ。静香のおっぱいは柔らかい中にも程よい弾力とハリのある巨大な大福。対して、 ちーちゃんのおっぱいは柔らかくてフワフワ、 きめ細やかな感じは超ビッグなマシュマロ。どちらも甲乙つけがたいお胸様があたしの前に鎮座しているんだから、 ありがたやぁって感じ。
あたしのおっぱいも大きさは負けていないので左右の胸に感じるおっぱいのリアクションの違いが存分に味わえるだから捨てたもんじゃない。メス同士だからこそ許されたスキンシップ、 どおいいでしょぉ。
え? 『おっぱいフェチ』 だって? そんなの決まってるじゃん。あたし乳牛だよ。おっぱいが気になるの決まってるよ! おっと、
気を取り直して……生徒の自立を目的にしているうちの学校は、 むしろアルバイトが推奨されている。卒業後の進路は、 ほとんどが就職。一部の生徒だけが人間たちに混じってでも、 研究者や獣医師と目指す強い志を持っている。なので人間たちのとりあえず進学なんていっている
そんな学校が用意した草食の獣人が経営者になっているアルバイト情報雑誌。当然、 雇わる側の条件も草食動物である事。
そうなんだけど、 問題がないわけじゃあない。
「やっぱり最後は人間と関わる仕事ばっかりなんだもんなあ。」
そうなんだよ。コレが最大の問題点。
「だが、 この世の中は人間が支配してる世界なんだから、 同僚はともかく、 客が人間なのは仕方ないだろ?」
静香のいう通り、 この世界は人間たちの物なんだもんな。あたしらの遠い祖先が、 人間に擬態する事を覚えたのだって人間たちの目を
「でもさー。せっかく人間の顔を見なくて済む生活ができるようになったのに、 なんとかならないかな~って」
かつて血の繋がりがあった
「それでしたら、 いい方法がありますわ。」
悩むあたしの救世主? いや女神様? それとも、 かわいいから天使?
とにかくいい笑顔を向けるちーちゃんだった。
――――――
というわけでここは、 ちーちゃん
フリフリのスカートタイプとフリルのないズボンタイプのどちらかを選べるんだけれど、 あたしらはスカートで統一。
『私には、 こんなスカート似合わない』 というのが
「「「いらっしゃいませ。」」」
お客様が来た。練習した通り腕を真っすぐ体の出して指を揃えてのお辞儀してご挨拶。
「初めてのご利用ですか?」
かっこいい接客の静香。初めてご利用のお客様だって。
「二名様でよろしいでしょうか?」
かわいい笑顔な、 ちーちゃん。後から来るお客様はいないみたい。
「では、 こちらにご案内しまーす。」
あたしは、 元気にお客様を奥の個室へご案内する。
このお店は、 表向きは会員制の喫茶店という事になっているけれどその実態は違う。表フロア、 喫茶店スペースの机やテーブルは主に人間たちを欺くための
奥は牛床になっていて牛に戻っておいしい牧草を頂くことができるのだ。ちなみに、 あたしらも試食させてもらったけど、 これがすごく
また、 シャワー室も完備していて汗も流せ、 頼めばマッサージをやってもらえる至れり尽くせりのサービス。
このマッサージがホント、 ヤバい。人の姿で始めてもらったのに、 気が付いたら三頭とも牛に戻ってガチ寝していた。しかも起きた後も夢見心地が気持ち良すぎて、 しばらく人に変身できなかった。
口からは、 ダラダラと涎をたらしながらそれを飲み込む力もなく。思考もまとまらない。
『だめ、 頭ボーッとする。何も考えられない。でも気持ちいい』
『だめです。こんな
『これじゃ普通の牝牛と一緒だ。なのに心地よすぎる。』
あたし、 ちーちゃん、 静香は完全に 『普通の牛』 と同じ状態だった。人の知性が吹き飛んで、 獣の野生が押し出されてるような感覚。普段の人間の振りをしている自分から、 一頭の牝牛に戻れたような心地よい気持ち。あれにはヤバい以外の感想がでない。
実際、 来店したお客様も友達と一緒に来たのはいいけれど、 人化変身できなくなった相方を待つために、 喫茶店スペースでお茶をするなんていうのも結構あるみたい。
今日は勤務初日とあったけれど、 お店は割かし繁盛していて人間に隠れて住んでいる
カランカランとドアベルが鳴る。
「「「いらっしゃいま……せ。」」」
接客担当の
「一人だけど空いているかなぁ? 」
なんか軽そうな客だ。人間の感覚だとイケメンって部類に入るかなって感じの
まっ、 あたしら牝牛の琴線には全く触れない奴だね。
「お客様、 どなたかのご紹介はありますでしょうか? 」
静香、 引きつってるよ顔、 スマイル、 スマイル。度突き倒したい気持ちはわかるけど、 駄目だよ。人間を殴ると犯罪だからね。
態度はともかく対人間用マニュアルに沿ったの対応をするけれど、 相手も引き下がらない。
「え、 何、
確かに開店して 2 か月くらいって話だけど、 この店は 『一見さん』 じゃなくて 『人間』 お断りなんだよ、 だからあんたには出ていって欲しいんだけどなぁ。
「いえいえ、 お客様の事をよく知りませんと、 こちらも十分な、 おもてなしができませんから」
ちーちゃんも、 声が低いなあ、 いつもの鈴を振ったような綺麗な声でないと駄目だよ。あれでも、 『客』 だよ。『招かれざる』 って頭につくけど。まあ 『よく知った』 所で人間への 『おもてなし』 は無理だから出て行ってもらう以外の選択肢はないんだけど。
「いやあ、 そんな事、 気にしなくていいって。君達かわいい 『女の子』 に入れて貰ったお茶ならそれだけで、 おいしいに決まっているじゃん。」
あたしらが可愛いの事と、 ここの紅茶がおいしいのは因果関係ゼロなんだけど。何言ってんだろ、 人間だと思ったけど、 コレ猿か何かな?
「とりあえず、 今日の所は他のお客様のご迷惑になりますから……。」
努めて笑顔で対応したながら、 拒絶の意思を示すように両の掌を振るようにジェスチャーする。でも、 後から考えたらこれが良くなかったかもしれない。
「君、 かわいいね。こっちの二人はちょっとツンツンしてるけど、 君の笑顔はサイコーだよ。」
と男は、 あたしの手を両手で握ってきた。一瞬、 頭がパニックになる。人間に手を掴まれているという事実と恐怖、 そしてそれに反発する怒り。
「手ぇ握ったくらいで赤くなっちゃって、 かわいいな。」
違う、 違う、 怒りで顔が赤くなっているんだ。何言ってんだこの猿!! やだやだ、 離してほしいのに、 人間のオスが怖くて動けない。助けて!
「お客さん、 ちょっとやりすぎですよ。」
「お引き取りください。」
静香とちーちゃんが、 すっごい笑顔で、 オス猿の両手をそれぞれ引きはがしてくれた。
「いっ! 痛ってぇ!」
大声で
「ちょっと掴まれただけでそんなに大声出すなんて情けないな。」
「ええ、 殿方のわりに情けないです。」
いや、
「な、 なんだよ。こんな店! 二度と来るか!!」
テンプレートな捨て台詞をはいて男は出ていった。バタンと閉まったドアの前で固まっているあたし達だったがそれも極わずかな時間だ。
「二度と来るな! ふー、 んもおお」
あたしは怒りのあまり興奮して、 鼻息が漏れる。
「なんて奴だ! んも、 もおお」
静香も怒っているみたいだ。
「失礼にもほどがあります! もぉ、 ぶもおお」
ねえ、 乳牛ってのんびりで穏やかな性格してると勘違いしてない? そんなことないんだよ。牛って割と好戦的な生き物なんだよね。
ヒートアップしていくに連れて、 ショートスカートから、 あたしは白黒、 静香は黒一色、 ちーちゃんは茶色の尻尾がちょこんと顔を出す。ハエを追い払う時のようにぶんぶんと振り付ける尻尾。そして
仮にも人化して、 人間並みの知性を持つあたしらの理性が吹き飛んで、 野生が前面に押し出されている。
それが証拠にあたしら三頭は両手を床について、 誰もいないドアに向かってさらにモウモウと威嚇を続ける。
しばらくして、 体格が倍以上に膨れ上がり、 制服が悲鳴を上げ靴が引き裂ける。それぞれ尻尾と同じ色合いの毛皮が現れ、 『あ、 これ借り物の制服だったのに!』 って言う人の部分が遠くで悲鳴を上げているけれど、 それらの感情を一切無視して牛の本能が心と体を完全に支配している。
「もおお、 ンモォオ!」
「もぅ、 も、 モォオ!」
「もぉも、 んモオオ!」
舌が伸びながら顔の骨格も変化し、 小さかった口の中にスペースができると音が反響して低く響き渡る美しい牝牛の鳴き声に生まれ変わる。
「「「モオオオオオ!!」」」
口から溢れ出てくる涎を我慢することなく床に滴らせながら前足で床を引っ掻いて仕切りに怒り続ける三頭の牝牛の姿は、 ついさっきまでこの場に居た女子高生達と結びつける事は出来ないんじゃないかな。
「ちょっ、 裕子ちゃん達、 何やってんの!」
「どうしたの一体。」
そう声を掛けて来たのバイトの先輩達
「いったいこれは!? …… !」
「なに!? ……!」
しかし、 彼女たちもその周囲の空気を一嗅ぎすると。状況を理解して、 顔を真っ赤にして怒りを
「もおおお、 もう!」
「んもおおぉお!」
あたし達と同じように4つん這いになった彼女たちも、 怒りの感情の
「「「「「ンモオオオオ!! モー、 モー」」」」」
制服だった布切れが床の上に舞い散る中、 五頭もの乳牛が唸り声をドアに向かって吠えている光景。
「あ、 あなた達! 何をしているの! 早く人間に変わりなさい!」
そう言って奥から駆け寄ってきたのは店長。さすがに従業員と違って、 この状況でも怒りに支配されるような事はないみたい。
でも、 一度火が付いた牛の本能に
――――――
あの後、 あの場の全頭、 人間に変身させられて裸のまま店長に怒られた。怒りに任せて吠え掛かるなど持っての他である事。まあ嗚呼いった
初日、 早々布切れと化してしまった制服は、 今回だけは、 おまけと新しく支給してくれた。ちなみに先輩たちは罰として新しい制服は購入だと言われていた。この店舗のオープン前にも系列店で働いていた実績がありながらの失態により、 許容できないとの判断らしい。買うと割と高いらしいので先輩たちは
シュッ、 シュッ、 シュッ、 シュー。
サッ、 サッ、 サッ、 ザー。
ゴシッ、 ゴシッ、 ゴシゴシ。
無言のまま、 店内で掃除に
「千尋ちゃん。さすがに、 もう匂いは残ってないんじゃないかな……。」
消臭スプレーを使い切る勢いで吹き付けている、 ちーちゃんを静香が。
「いや、 そういいながら静香は塩を
その横で、 もはや盛り塩状態になっても、 まだ続ける静香をあたしが。
「裕子ちゃんこそ、 そんなにゴシゴシ洗ったら、 綺麗なお手が可哀そうです。」
備え付けの洗面台で手を洗い続るあたしには、 ちーちゃんがそれぞれツッコむ。だって、 あいつの匂いとか落ちない気がするんだもん。もうちょっといいじゃん。
「「「アハハ、 ハハ、 ハハ、 ハハ……。」」」
顔を合わせて笑うけど誰も目が笑っていない。たぶん私自身も飲食店スタッフが見せてはいけないような顔をしているだろう。
「あの人間の目を見たか? 私達の胸を
ダメだヨー、 静香ぁ。殺気が駄々洩れだよー (棒読み)
「2つもあるのですから、 1 つくらいは良かったのではありません? それにしても、 あんなに欲情した匂いを振りまいて平気でいるなんて気は確かなのでしょうか? あそこまで利かないなら
やっだぁ、 いつも笑顔のちーちゃんがすっごーい冷たい顔になっているぅ (棒読み)
「利かないんだから無くていいんじゃない。それなら、 あの
なんか、 いっそのこと顔のパーツは全部とってもいいんじゃない。もうめんどくさいから(本音)
「あとにさー、 地味に 『女』 って言われるのも腹立たない? あたしらは人間のメスじゃないっての」
あたしはさらに不満を漏らす。
「ええ。そもそも自分達のメスだけを指す 『女』 という言葉を作るなんて、 あの生き物の傲慢さが出ていて不愉快です。」
蔑むような笑顔のちーちゃん。
「そうだな。オスとメスで済むのに 『男』 とか 『女』 とか、 あんな奴らが上から目線なのもムカつくな。」
邪悪な笑みの静香。
さすが、 我が
それにしても、 あたしの先祖は、 よくあんな生き物との間に子供を作ろうと思ったのか謎。あれかな?
「死んでも、 お断りだ」
「絶対に嫌です。」
バッサリと吐き捨てるように言い放つ静香と、 ツンと顔を背けるちーちゃん。よかった。あたしだけじゃなかったんだ。
――――――
そんなこんなで週に三日、 主に週末の昼間を中心にシフトを組んでもらってアルバイトに励んでいる。
客商売は学べる事が多かったし、 すでに人間の社会で頑張っている乳牛のお姉さん達とお話する楽しかった。
そんな充実した日々を送っていたある日。静香からふわりと薫る匂い。ちらりと横を見るとあたしと同じ事に気が付いたのか、 ちーちゃん
お客様が
「ねえ、 静香ぁ、 ちょっといいかな」
「静香ちゃん。お話があります。」
「え、 何の話だ?」
努めて穏やかに静香に詰め寄る。あたしとちーちゃん。
「「このオスの匂いは何なんな(です)の?」」
「え、 あ、 ああ、 いやぁ」
いきなり、 動揺する静香。あたしらは一気に畳みかける。
「あーあ、 ちーちゃん。これは浮気だね。」
「そうですわね。
「それは、 いや、 そうじゃなくて! えーと。……。」
問い詰められて、 静香は秒で白状した。その話を要約すると……。
静香は最近になってお爺様に言われて、 道場の師範代になったそうだ。そんな中で入門してきた男の子がどうやら和牛の血を引いていたらしい。半分は和牛種の血を引く静香としては自分よりも幼いとはいえ、 彼の事が気になり、 微かに薫る
「「ふぅうーうぅん。」」
私とちーちゃんは完全に遠い目をして静香を見つめている。気のないふりをしているが、 静香の態度は完全にメス化している。好きとかどうとかじゃなくて、 『
「どうする? ちーちゃん。」
我が群れのボス、 実はちーちゃん。だからあたしとしては、 ボスに伺いを立てる。
「決まってますわ。静香ちゃんの旦那様は……。」
と言葉を切って、 頬を染めにっこりいい笑顔のちーちゃん。
「
「だぁよねー。」
そりゃあそうだ。群れの
「「その子、 連れて来て(ください)ね。」」
「えっ、 えええー。」
へへっ、 未来の旦那様かぁ、 どんな子なんだろう? 楽しみ。
と困惑する静香をよそに、 期待に胸躍るあたしと、 頬を赤くするちーちゃんでした。