その他の獣化作品 No.17
余所者
作者:DarkStar
「うわ ・ ・ ・ ・ すっごぉ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 風が気持ちいい ・ ・ ・ ・ 。」
都会生まれの都会育ちの美代にとって、
この村の自然あふれる姿に心打たれ、
しばらく、 風に身を任せていた。
ここは、 神代村は、 人口数百人の小さな集落。
数年前に、 隣接する宮前市と合併し、
その一部となっているのだが、 いまだにここは、 『神代村』 と呼ばれている。
彼女の父の仕事の関係で宮前市に転勤となり、
家を探したのだが、 村と違い発展した街の地所はどこも開いておらず
しかたなく、 この村の振興住宅地に引っ越してくる事になった。
しかし、 どうもこの土地は、 保守的な家が多いらしく、
引越しの挨拶に行った両親は、
『他所のもんとは口は聞かん!!!』
と門前払いを喰らっているのだった。
そんな状況で明日から始まる学校。
言い知れぬ不安が美白を襲った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
美白が訪れたのは、 この集落、 唯一の分校。
田舎の学校らしく、 生徒の数が極端に少ないため、
小、 中が一緒になっているようだ。
校舎の古さもあって、 まるで映画の撮影にも使えそうな雰囲気だ。
「そう ・ ・ ・ ・ ・ たいへんだったそれはわね。」
彼女は、 山下萌。 美白の担任というか ・ ・ ・ ・
他に分校長がいるだけなので
実質的に、 彼女がこの学校の唯一の教員と言えるだろう。
まだ、 若く先生になってまもないといった雰囲気だ。
「は ・ ・ ・ ・ はい ・ ・ ・ ・ ・ 」
「先生も、 半年前にこっちに来た時は大変だったわ。」
「え、 先生もですか ・ ・ ・ ・ ・ 。」
「ええ、 でも、 村の 『仲間』 になってからはとてもみんな良くしてくれるわ。」
にっこりと笑うその顔は、 すがすがしさというよりも、
寧ろ不気味さを感じさせる笑みだった。
・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
萌につれられ、 教室に入る美白。
都会の中学と違った教室の木の匂いが飛び込む。
一つのクラスに同じ年、 同じ学生服に実を包んだ都会の中学とは違った
独特の雰囲気が美白には新鮮に感じられた。
「今日から、 皆さんと一緒にお勉強する事になった 忍村 美白さんです。」
ごくごく普通の転校生紹介。
分校で、 さまざまな学年の生徒が一緒の教室にいることを差し引いても、
彼等の反応は異常といえるものだった
「えーーーーえええええええ!!!」
「いやだぁ。他所のモノとは口をききたくな~い。」
どうも昨日の村人達と似たような反応。
「だめですよ。そんな事言ったら、 ・ ・ ・ ・
それに先生だって、 半年前ここに来たばかりの
他所者ですよ。」
「「違う。」」
「そうだよ。先生は、 もうそんな奴とは違うよぉ」
「先生はもう 『この土地のもん』 だ。」
「そうよ。そうよ。」
「みんなあ、 仲間はずれは、 だめだよぉ。
それに、 萌の言う事をちゃんと聞くですよ。」
というのは、 大体席の真ん中くらいに座った
短パン姿のよく似合う男の子。
身長だけでいうなら、 小学校の 4,5 年生といった所だろうか。
教師を名前でしかも呼び捨てにしている彼に対して周りは一切
気に留める様子もなく。
当の本人も
「そうですよ。コオちゃまの言うとおりですよ。」
と、 まったく気にしていない。
「僕の隣が空いてるから ・ ・ ・ ・ ・ ・ おいでよ ・ ・ ・ 」
「ありがとう、 ・ ・ ・ ・ えっと、 ・ ・ ・ ・ コオくん ・ ・ ・ ・ でいいかな?」
その瞬間。ギロッ!!!と
クラス全員の顔が、 美白の方へ向く
「あんたなんなの!!! 『コオちゃま』 に馴れ馴れしいわよ!!!。」
というのは、 彼の後ろに座った女の子の甲高い声。
「そうだ、 そうだ、 テメェ、 『他所者』 のくせに!!!」
それと共に男子の力強い声も一緒になり、
皆、 口々に美白を攻め立てる。
「「「余所者!!!」」」
何気ない一言でクラス全員から、 目の敵にされ、
立場のない美白
「やめなさい!!!」
と大きな声で制したのは、 萌。
よかった。これで ・ ・ ・ ・ と思った安心に胸を撫で下ろす美白
しかしその耳に先生は、 信じられない一言を言った。
「忍村さん。コオちゃまに、 失礼よ。
ちゃんと 『コオちゃま』 と呼びなさい。」
教師に両肩を力強くつかまれ、 顔を近づけられる美白。
萌の目は完全に据わっている。
「せ、 せんせい ・ ・ ・ い、 痛い ・ ・ ・ ・ ・ 。」
「いいから、 『コオちゃま』 と言いなさい!!」
怒り余り声を荒げる。
すごい勢いの教師を生徒達も止めるどころか
同じ雰囲気でにらんでいる。
そんな孤立した教室の中で一人だけ、 美白を味方してくれるものがいた
「やめるです。萌。 みーちゃん。をいじめたら 『めッ』 だよ。」
どうやら、 みーちゃんというのは、 美白の事のようだが、
美白自身、 教師に肩をつかまれ、 そんな事を気にする余裕は全くない。
相変わらず、 教師を名前で呼び捨てするコオ。
「でも、 コオちゃま。このクソガキが!!!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。」
教師の声と顔は、 さっきほどまで穏やかなものから一転。
人の怒りの面ではなく、 もはや鬼や、 野獣のそれだ。
その口からはまるで牙のような尖った犬歯を
剥き出しにしている。
口からは、 透明な液体が流れ落ち、
まるで犬か何かが敵を威嚇しているようにも見える。
「萌~。僕の言う事が聞けないですか?」
とにっこり首を傾げるコオ。
その様子に手から力が抜けるように美白から離す萌。
傷にこそなってはいないが、 指の後がくっきりとついている。
「も、 もうしわけありません。コオちゃまぁ
おゆるしください。」
と教師が生徒に向かって深々と頭をさげ陳謝する。
その目には、 涙が浮かんでいた。
「ちゃんとごめんなさいできる仔は、 いい仔、 いい仔だよ。
さあ、 授業を始めるよ~。」
とコオがいいながら、 下げられた頭を小さな手で撫でると
しぶしぶ教壇に戻る萌。
「グゥウウ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
一瞬だけ、 美白の方を向いた萌、 不気味な唸り声と一緒に睨らんだ。
・・・・・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そうだ、 みーちゃん。僕が村を案内してあげるです。」
先ほどまでのやりとりが恐ろしい。美白
『はい』 と応えれば、
コオちゃまになれなれしい、 お手をわずらわせるなんて。とか
逆に 『いいえ』 と応えても、
コオちゃまのお心使いを無にするなんてとか言って怒られそうだ。
一度でもあの異様な空気に飲まれたら、
とてもここにはいられない。
美白は、 恐怖のあまりどちらも応えられずにいる。
「コオちゃまそれなら、 私が ・ ・ ・ ・ ・ 」
とは、 コオの後ろに座った少女、 確か名前は鈴莉(すずり)とか言っていた。
年の頃は、 美白と同級かもしくは一つ二つしただろうか。
「あ、 あの ・ ・ ・ あたしは ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
やっと声を出した美白に、
「あんたの言う事なんか聞いてない。汚らわしい。『他所者のくせに』」
と切り捨てる鈴莉。その目つきは、 先ほど怒った萌と同様にとても冷たかった。
「りーり。だめだよ。意地悪いっちゃ。すぐに 『この村の仲間』 になるんだから。」
「でも、 コオちゃまぁ。」
美白の時とは違う鈴莉の代わりよう。
元気のあるときならいざ知らず、
初日から疲れきりそれこそ、 泣きたいのを必死で堪えている彼女には、
同級生の変わりように突っ込む事はおろか、 不満に思うことすら億劫であった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『チリン、 チリン、 チリン、 チリン』
授業終了の鐘はチャイムでなく、 ハンドベル。
校舎が狭く、 生徒の少ない教室には、 これで十分大きく聴こえる。
(やっと終わった。 ・ ・ ・ ・ ・ もう帰ろう ・ ・ ・ ・ ・ ・ )
最悪ともいえる彼女の転校初日の授業がすべて終わり
帰宅する。
授業といっても、 分校のそれは、 すべて自主学習。
教師にも嫌われた彼女は、 一人さみしく
ひたすら、 問題集と格闘する事で孤独に耐えるしかなかった。
(こんなにまじめに勉強なんて初めてかも ・ ・ ・ ・ ・ ・ )
黙って席を立ちそのまま、 誰とも口を聞かずそのまま、 教室を出た。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
美白の家は、 学校から遠いという事もないが
それなりに距離はある。気持ちが沈み重い足を何とか上げながら、
美白は家路を急ぐすると。
「わあああああ」
目の前にバッと飛び出す人影。
「きゃああああああああ」
突然のそれにびっくりし、 思わず大声を上げてしまった美白。
美白を脅かした張本人は、 逆に美白の声にびっくりして
尻餅をついている。
目を丸くした美白の顔をみて、
短い裾のズボン叩いて砂を落とすと。
「駄目だよ。勝手にかえっちゃってさあ。
この村を案内するって僕、 言ったでよね。」
「え、 ・ ・ ・ ・ で、 でも ・ ・ ・ ・ ・ 」
「いいから、 いいから ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
戸惑う美白の腕を掴んで、 引っ張るコオ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
村中をつれまわされた。美白。
都会育ちの彼女にとって、 山道を駆け回る事は
体力的にきつかったが、 それも、 一生懸命美白を案内してくれる
コオの姿に負けていられず。
美白も必死にその後をついていった。
最後に訪れたのは、 村の高台にある神社。
「ここは、 山神様の神社。僕の家だよ。」
そう紹介してくれた境内は、 お世辞にも流行っているとは言えず。
人気はほとんどない手入れが行き届いている。
本殿も、 建物事態は時代を感じさせるが、
寂れている様子もない。
「ちょっと、 待っててね。」
と言い残し、
トテテ ・ ・ ・ ・ ・ と音がなるようにかわいく走っていく、 コオ。
用があるのは、 母屋。つまり彼の住まいだ。
ちょっととは言ったがいつまで待って要ればいいのだろうか。
そう思いながら、 美白が待っていると ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ああ、 何で神聖な場所に他所者が!!!」
と大声に振向いた先には、 鈴莉。
「だめよ。鈴莉ちゃん。コオちゃまが直々に彼女を呼んだんだから ・ ・ ・ ・ 」
と階段を登ってくるのは、 担任の萌。
「でも、 せんせー ・ ・ ・ ・ ・ 。」
とこちらはひどく不満そうな声。
「どうしんたんだよぉ。うるさいなぁ。」
と母屋から出てきたのは、 コオ。
服を着替えてきたのだが、 その格好は巫女さん。
サイズが少し大きいのか
そう、 お正月などにおみくじや弓矢を売っている 『女の人』 の事だ。
なぜ男の子が女の人の格好を ・ ・ ・ ・ と美白の頭に
はてなマークがいくつも浮かんだ頃。
「やーーーん。こおちゃま、 かっわゆういいいいい。」
つい数秒前まで、 美白をにらみつけていた。鈴莉が、 コオに飛びつき
膝や靴下に砂が付くもの返り見ず
顔を摺り寄せる。
「まったく、 りーりは、 甘えんぼさんだね。
あ、 萌も来てたんだ。」
と鈴莉の髪をやさしくなでる。
「はい。」
十ほども年の離れた少年に顔を真っ赤して、 よろこぶ萌。
巫女服の長い袖に手を突っ込みごそごそとまさぐると、
小さなゴムゴールを取り出す。
「は、 はっ、 はっ」
それを見た瞬間、 萌は舌を出し、 息を荒くしている。
「ほら、 萌~。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ とってこーーい。」
とコオがボールを投げると、
投げられた方向に向かって、
「わんわんわんわん」
と声を上げながら、 四つん這いで駆けていく萌。
手入れの行き届いた綺麗な爪がボロボロになることも、
短いスカートから、 下着が見えている事も
自分は教師であり、 生徒の目の前で恥ずかしい行動を取っているという意識も、
全く気にせず石畳を走っていく。
鳥居の先、 神社まで続く長い階段下へ向かって転がっていってしまった
ボールを追ってそのまま、 萌は、 美白達の視界から消えた。
その異様な姿に美白は立ち尽くしたまま固まってしまう。
「ああああ、 コオちゃまぁ、 だめぇ、 だめですぅ。」
少女の甲高い声、 驚きの顔のまま、 顔だけを傾けた美白の目の前には、
女の子の胸にすがりつき制服のそれをたくしあげ、
白いふくらみの中央のほのかにピンク色の
粒を口に含むと、 そのまま、 口を膨らませ力いっぱい吸う。
少女とコオの身長の差で彼女の胸の位置にちょうど
彼の口元が来ている。
「あああん、 だめ、 だめです。そんな。そんな勢いよくす、 吸っちゃあ ・ ・ ・ ・ 」
まるで母乳をすする子供のように
「ああああ、 コオちゃまぁ、 だめぇ、 だめですぅ。」
まるで母乳をすする赤子のように鈴莉の胸にすがり、
チューチューと音を立てて吸うコオ。
その顎をつたう白い液体。
甘い独特の匂いを発するそれは、 ヒタヒタと
地面に滴り落ちていく。
「ん、 うん、 うん、 ん、 ん、 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
喉を鳴らして胸から出る液体を喉に流し込むコオ。
「ひゃん、 はあああん、 あああああああん。」
と大きな声を上げて腰砕けを起こしたように、 その場に経たりこんでしまう。
腕で口元を拭う少年。
口元についた白い物が、 腕につき、 てかてかと光っている。
すると少年の体が、 ビクンと痙攣すると、
その体が変化していく。
発展途中で、 筋肉もついていないほっそりとしたやわらかい腕を
程よく脂肪がつく。
短い指先は、 細く長くなり、 丸みを帯びた爪は、 綺麗な楕円形に変わっていく。
肌蹴た待ったいらな胸が大きく膨らみ
ぶかぶかの白い服が引きちぎれてしまうほど押し上げられる。
少年の短い髪が長くなり、
肩を、 ・ ・ ・ 背中を覆い ・ ・ ・ 腰まで伸びていく。
その髪の天辺からピンと尖った三角の耳が立ち
袴を波打たせて、 巨大な毛ダマリがぶわっと、 生えてくる。
「あ、 あああ。ああああ。」
「ふふ、 どうしたの ・ ・ ・ ・ ・ 美白 ・ ・ ・ 。」
目の前の人物は、 美白に声を掛けてくる。
数秒前まで少年だったその声は、
妖艶な女性の物に変わっていた。
うれしそうに、 ぱたぱたと背中で揺れるそれは、
きれいな黄色の毛で先にいくほど細く白くなった狐の尻尾だった。
「はあああ、 弧緒 (コオ) 様ァ」
と彼女に言うのは、 両足のふくらはぎを地面につけ、
足を M 字型にして、 座り込む鈴莉。
彼女の頭から、 白く尖った角。
顔の横から生えた耳には、 白と黒の毛が生えている。
そして制服のスカートの裾には、
先に房のついた斑模様の物。
「なにが、 一体 ・ ・ ・ ・ どうなっているの。」
顔を青ざめ、 振るえだす。美白の後ろから。
「わん、 わん、 わん。」
という声。彼女の横を通りすぎた
それは、 頭から垂らした茶色の耳を振り乱し、
短いスカートから見える肌色の尻から、
丸まった尻尾をうれしそうに振って、 四つん這いで走る。
萌の姿だった。
その口には、 ゴムボールが咥えられ、
それを落とすまいと、
鋭い牙がガッチリと噛まれていた。
「いい仔ね。萌。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
萌からボールを受け取り、 ながら、 萌の髪に触れ、
やさしく頭を撫でる弧緒。
頭を撫でられた萌の手や足を耳や尻尾と同じ毛が生え。
鼻先が伸びたかと思うと、 女性教師は、 完全に犬の姿に変わってしまった。
「せ、 先生が犬に ・ ・ ・ ・ ・ 」
「さあ、 待たせて、 ごめんね。美白。この仔達ッたら甘えんぼさんだから。」
そういった彼女の手を犬と化した女教師は、 ペロペロと舐める。
「いや、 こないで ・ ・ ・ ・ ・ こないでぇ ・ ・ ・ ・ ・ 」
声を震わせる美白
「うううん。さあ、 この子は何がいいかしら ・ ・ ・ ・ ・ 」
顎に手を当てて、 首をかしげて考え込む狐耳の女。
「弧緒さまぁ ・ ・ ・ ・ 牛さんが少ないですぅ ・ ・ ・ ・ ・
弧緒さま。牛さんにしましょうよぉ」
そういうのは、 鈴莉。
目を閉じて、 しばらく瞑想するようにしていた弧緒が
「そうねぇ、 ・ ・ ・ ・ 確かに牛神様の仔がちょっと少ないわ。
じゃあ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうしましょう。」
「○、 ▽、 ×、 % ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
両手で特殊な印を組み。
なにやら、 聞き取れない呪文を唱える弧緒。
その周りふわっ、 ふわっとに青白いものが、 漂うと ・ ・ ・ ・ ・ 。
「ああ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ハナぁ ・ ・ ・ ・ ハナ ・ ・ ・ ・ うれしいい ・ ・ ・ 。ハナが来てくれたんだ。」
ユラユラと揺れる白い物体に目をやり、
両手を体の前で組みながら、 感動するような声を出す。鈴莉。
弧緒の周りに漂っていた物体がいきなり向きを変え、 美白の方へ向かってくる。
「きゃあああああああ」
と身をかがめようと美白の前でそれはスッと消えてしまった。
「なんだったの?今の ・ ・ ・ ・ ・ 」
しかし、 体に感じる違和感。何か体の中で暴れているような感覚。
その不思議な感覚に首をかしげていると ・ ・ ・ ・ 。
「あんた!!!、 早くハナに ・ ・ ・ 『わたし達に』 従いなさいよ。
全く、 せっかくハナがあんたみたいなのに入ってくれたのに!!!」
鼻息を荒くしする鈴莉。
あれこれ、 混乱している上に、 意味不明の言葉と
理不尽な怒りに戸惑う美白。
そこへ ・ ・ ・ ・ ・ 。
『ンモオオオオオオオオオオオオ!!!』
境内に響き渡る牛の啼き声。
「あああ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 牛神さま ・ ・ ・ ・ ・ 」
半ばパニック状態を美白を置き去りにして
一人盛り上がる鈴莉。
「ハナ ・ ・ ・ ・ 早くしないと ・ ・ ・ 牛神様に失礼よぉ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ あんた、 まだいたの?さっさと消えてハナに明け渡しなさいよ。
牛神様の御前でいつまでその汚らわしい姿をさらしてんのよ!!!」
言葉の前半部分は、 まるで愛しい恋人に声を掛けるようにやさしく、
その後の部分は、 まるで親の敵のように憎しみを込めて言う鈴莉。
そういって、 靴を脱ぎ、 ソックスを引っ張る。
中から現れた足は、 爪先に黒々とした蹄が見える。
そのまま両手を着くと、
5 本の指は、 2 つの太い爪だけ残し、 消え。
制服を引きちぎるように体が大きくなったいく。
「モオオオオ、 モオオオオオ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
お尻に張り付いたスカートの破片を尻尾で払い落としながら、
ホルスタインとなった鈴莉は大きな声で鳴く。
「モオオオオオ ・ ・ ・ ・ モオ ・ ・ ・ 」
(ハナ、 早く、 早くぅ。早く牛になろう。)
モオとなく牛がまるで自分に話しかけているように感じる美白。
「え、 あ ・ ・ ・ ・ ・ あ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
頭がぼーっとする感覚。
大きなものに取り込まれ、 溶けていく感覚と同時に、
くっきりとしてくる別の意志。
「あ ・ ・ ・ ・ ・ あああ ・ ・ ・ ・ うん。ちょっと待っててね。『レナ』 ・ ・ ・ ・
あと ・ ・ ・ ・ ・ もう、 もおおお、 ちょっとだ ・ ・ ・ から ・ ・ ・ ・ ・ 」
そういう美白のスカートから尻尾が飛び出し、
フルフルと揺らしながら、
長い髪を持ち上げるようにして、 白い角が生えてきた。
「うもおおおお、 うもおおおおお ・ ・ ・ ・ ・ ・ モオオオオオオオオオ!!」
牛の啼き声が響き、 その地に 『人』 の姿は無くなった。
『ウモオオオオオオ、 ウモオオオオオオオオ』
「「モオオオオ、 モオオオオオ!!!!」」
天から響く雄牛の声にあわせ、
地上で啼き声を上げ続ける 2 頭の牝牛。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
しばらく、 啼き声を上げ続けた牛たち。
『ウモオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
最後に一際、 大きな啼き声を上げ、
牛の神は姿を消したのであろう、 重苦しい気配が消えた。
「モオオオオ ・ ・ ・ ・ ・ モオオオオオ」
「モウモウウ、 モー、 モー」
2 頭のホルスタインが身を寄せ合い
鳴いていると、
そのうちの一頭の体が小さくなっていく。
巨大な乳房が、 前脚の間に移動し、
二つの豊かな含み。
角の合間から生えていく黒い毛が長く伸びていく。
前後の蹄は、 割れるように 5 つに分かれていく。
体を覆う白と黒の毛が無くなっていくと、
肌色の皮膚が顔を出す。
細長い顔が短くなり、 角がなくなると
そこには、 人 ・ ・ ・ ・ ・ 美白と呼ばれていた少女が
しゃがみ込んでいた。
「おめでとう。『美白』 ちゃんは、 貴女は、
『他所者』 ・ ・ ・ ・ ・ ・ よその 『人間』 じゃなくて
この土地の 『物』 になったわ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
狐耳の女性がやさしく 『美白』 に声をかける。
「ありがとうございます。狐緒さま ・ ・ ・ ・ 。」
そういって頭をさげた少女の頭に触れられる手。
「ねえ、 みーちゃん。
みーちゃんは誰の物?」
上から聞こえる声は、 幼い少年の声。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 山神様方の物 ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ 神代の物 ・ ・ ・
そして ・ ・ ・ ・ ・ 狐緒様 ・ ・ ・ ・ ・ コオちゃま ・ ・ ・ ・ の物 ・ ・ ・ ・ ・ です。」
「ふふ、 いい仔ねえ。『美白』 ちゃん。」
今度は妖艶な女性の声。
撫でる手が次第に小さくなっていくと、
狐耳の女は消え、 再び巫女服姿の少年となった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ハナ ・ ・ ・ ハナぁ ・ ・ ・ ・ 」
昼休みの校舎裏。
制服の下から、 はやした尻尾を振り鈴莉。
頭から生えた白い角が美白にあたらないように摺り寄せられる。
「美白だっていったでしょぉ。
『レナ』 だって、 今じゃちゃんと 『すずり』 って言われてるじゃない ・ ・ ・ 。」
顔を摺り寄せられる美白も、 鈴莉と同じ牛耳姿だ。
「えー!!、 『ハナ』 を汚らわしい人間の名前で呼ぶなんて、
あたしできないよぉ ・ ・ ・ ・ 。」
頭を離し、 顔を向け、 口を尖らせる鈴莉。
「モオオ!!、 鈴莉ったらかわいいんだから ・ ・ ・ ・ ・ 。
でも、 そういう決まりだから、 ・ ・ ・ ・ ・ 早く気に入ってね。あたしの新しい名前 ・ ・ ・ ・ 。」
少女のちいさな口から太い舌がぬっと伸びると、
口元から、 唾液をたらしながら、 鈴莉の顔を舐める。
「うん。わかった ・ ・ ・ ・ 。ハ ・ ・ ・ じゃなかった 『みしろ』 がそういうなら ・ ・ ・ ・ 。」
今度は、 鈴莉が、 美白の顔を舐める。
ねっとりした液体が、 頬との間に橋を作り
ゆっくりと千切れていく。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ありがとう。でも、 ここの草おいしい。ゴフゥ ・ ・ ・ ・ ん、 ゴグッ」
草を反芻しながら、 喋る美白。
小さなゲップと共に、 やわらかくなった草が口の中に戻り
再び胃へ送り返す。
「でしょ、 でしょ。ここの草、 本当においしいんだよ。 ・ ・ ・ ・
ゴボッ ・ ・ ・ ん、 ゴックン。
程よく日陰もあって、 お昼には持って来いだよね。」
こちらも、 つられる様に反芻し、 草の味を噛み締める。
「ホント ・ ・ ・ うちに帰ったら、 人間の食事でしょぉ、
まずくってさあ ・ ・ ・ 」
以前は、 慕っていた両親も、
今の彼女にとっては、 『汚らわしい人間の 2 匹』 ・ ・ ・ ・ ・
忌々しいように顔をゆがめる。
「わかるわかる ・ ・ ・ ・ あいつら、 あんなまずいものよく食べてるわよね。」
「抜け出して、 家の周りの草むしったら、 変な味がするし ・ ・ ・ ・ 」
「ああ、 美白の家の周りって、 街の人間どもが、 『開発』 とかいって、
勝手に土地を掘り返したり、 いろいろやったせいで、 ろくな草が生えないんだよ。」
「もう ・ ・ ・ 人間たら、 ろくなことしないんだから ・ ・ ・ ・ 。」
だんだん引きつった顔になっていく美白。
「つらいね。美白 ・ ・ ・ ・ 。美白の家の奴ら、 まだ 『他所者』 だから ・ ・ ・ ・ ・
人間の 『成獣』 を変えるのっていろいろ準備がいるみたいだし ・ ・ ・ 」
「でもね ・ ・ ・ この前、 狐緒さまが、 『あいつら』 連れて、 土曜日に神社に来てだって ・ ・ ・ ・ ・ 」
それは、 彼女の 『両親』 が 『この村の物』 になる事を意味する。
「えー、 よかったねえ、 美白ぉ」
「うん。後もうちょっと我慢すれば、
あの汚らわしい人間の 『家族』 から開放される ・ ・ ・ 。」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
二人の牛娘の様子を木の上に上って見守る少年。コオ。
ニコニコ顔で少年は
「りーりもよかったね。『仲間』 ができて ・ ・ ・ ・
そういえば、 学校に牛さんいなかったねえ ・ ・ ・ ・ 」
というと、 急に目をきりりとし、 口元をわずかに
ほころばせ。
『そうね ・ ・ ・ ・ 2人とも、 とってもかわいいわ。』
少年の同じ口から出てきたのは、
妖艶な女性の声。
「ええー、 狐緒 ・ ・ ・ ・ 僕は、 僕は ・ ・ ・ ・ 」
『もちろん ・ ・ ・ ・ ・ ・ かわいいわよ。』
見た目こそ、 独り言のようにしか見えないが
音だけ聞けば、 会話をしているように聞こえる
「えへへへへ。」
「コオちゃま~。そんな所にいると、 危ないですわよ~」
と地上で犬の尻尾をパンパンに張らせながら、 怒っている萌だ。
「しかたないな ・ ・ ・ ・ ・ 戻ろうか ・ ・ ・ ・ ・ 狐緒 ・ ・ ・ 」
『そうね。でも、 怒った萌も、 かわいいわ。』
「 ・ ・ ・ 狐緒ったら ・ ・ ・ 。気楽だよね。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 怒られるの僕なんだもん。」
『そういわないで、 かわいいコオが怒られてしょんぼりしている姿は、
私もつらいわ。』
山神様の代行、 神主にして、 巫女たる
コオは、 渋々気から下りていく。
神代村。 多くの神々とその眷属だけが住む神聖な村。
それを汚す他所者はいない。
なぜなら、 ここに来たら最後、 一人残らず、 村の眷属にされてしまうのだから ・ ・ ・ ・ ・ 。